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ブランクとゴールの『ルイーズ』 [オペラ録音・映像鑑賞記]

Louise.jpg シャルパンティエの『ルイーズ』は労働者階級の娘が、両親の「お人形」であった状態から「人」として目覚めてゆく様を描いた歌劇。

 初演は1900年の2月。
 フランス初のウ゛ェリズモ風オペラと言われていますが、女性を旧い価値観から開放したシャネルがパリのカルボン通りに帽子店を開いたのが1910年であることを考えますと、他のヴェリズモ作品群から頭ひとつ分飛びぬけて現代的な作品という感もあります。

(ちなみに、《今日からは"Depuis le jour"》聴きながらリブレットを目で追っていてパッと思い浮かんだ映画がナタリー・ウッドの『草原の輝き』ですが、こちらは1961年の公開です。)

 ルイーズの「目覚め」は「旧時代からの脱皮」であり、貧困・享楽・諦観・自由のごった煮となった都市パリに象徴されています。二幕や三幕冒頭の街のシーンはさぞ圧巻なことでしょう。

 そのパリの狂騒を苦々しく眺める旧時代の代表がルイーズのパパとママ。詩人の若者との愛と自由に生きようとするルイーズを「よい娘」の檻に閉じ込めようとする、両親の典型的な役割を担っています。
 歌うはエルネスト・ブランクリタ・ゴール。ワタシにとってのゴールデンコンビであり、ブランクとゴールそれぞれの持ち味がこの作品のテーマ固めに大きく貢献した、理想的なキャスティングではないかと、個人的に思っています。

 御年59才のブランク先生、高音のみずみずしさは(微妙に)減少したような気もしますが、低音のセクシーさは相変わらず。以前、ブランクのあまりのセクシー歌唱に「パパ役禁止令」を発令したほどなのですが、この作品のように娘に精神的にベッタリした父親役であれば話は別です。ブランクのデレっとした声のセクシーさが、娘の側からみた親世代のうっとうしさをいや増して、大変効果的であると感じます。

 なにしろ、

 家出をした娘の部屋に跪いてむせび泣いたり(ママ談)、
 娘恋しさで病気になったり(ママ談)、
 一時的に顔を見せた娘に暴力的なまでに激しく抱きつき、長~い長~~~いキスをしたり、
 あげくのはてには娘を膝にのっけて揺すりながら子守唄を歌ったりしちゃう、

 エ~ロいエ~ロ~いパパなンですからッ!!(*´Д`)ヤ~ン

 息子であれ娘であれ、子どもに対する親の束縛、過干渉には何かしら性的な臭いがつきまとうものであります。

 リタ・ゴールのママも同様で、そもそもルイーズと恋人のジュリアンの関係に最初に反対しているのはママなのですが、そのママの態度も少しおかしい。ジュリアンがルイーズに囁いた愛の言葉を、さも馬鹿にしたように繰り返してみせたり、まるっきり冷静さを欠いています。ぶっちゃけ、性格悪そう。

 おそらくママは、同じ女性として、愛と自由に生きようとする娘に嫉妬を感じているのでしょう。
 一幕ではルイーズの家族の団欒シーンが繰り広げられますが、ふざけてママの腰を抱いて踊ろうとするパパを振り払うなど、結婚生活に対するこのママの冷めた思いを垣間見ることができます。

 ルイーズをたしなめるパパの、
「Qui dit amoureux, toujours dit aveugle !(Whoever says he's in love,admits he is blind)」
 というセリフにも、なんとなくこの熟年夫婦の微妙な距離感が見え隠れしています。

 リタ・ゴールの、美しいけれども不感症っぽい声質と歌唱が、このママの内面に大変マッチしていると思うのです。

 四幕の第2場~3場にかけての、ルイーズとパパ、ママの口論は圧巻です。哀願口調からみるみる荒れ狂っていくパパ。一幕での威勢の良さはどこへやら、オロオロするママ。パリの街の呼び声に応え、青春を歌いあげるルイーズ。
 次第に情熱的にテンポを上げるワルツの調べには、19世紀から20世紀へ移り変わる時代のエネルギーが満ち溢れており、聴くたびにしばし言葉を失ってしまいます。私自身の感じる限り、21世紀の幕開けはこのような期待感は皆無だっただけに(既に自分が旧世代の人間だったってことでしょうかね……)。

 最後になりましたが、ルイーズを歌うフェリシティ・ロットもたいへん良いです。この人の声はいつもうら若き娘らしく、とても可憐。

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『Louise』/Gustave Charpentier

Sylvain Cambreling
Belgian National Opera Symphony Orchestra

Louise:Felicity Lott(S)
Julien:Jerome Pruett(T)
Le Pere:Ernest Blanc(Br)
La Mere:Rita Gorr(A)

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