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『ピーター・グライムズ』あれこれ [オペラ録音・映像鑑賞記]

 というわけで、もうしばらくお付き合いください。『グライムズ』が終了しても、このまま「ブリテン強化月間」に突入しそうな勢い。

 立て続けに三つの録音を聴き比べたわけですが、自分的にいちばんしっくりくるのは、やはりウ゛ィッカーズのグライムズ@コリン・デイヴィス盤なのです。いい意味でベタベタ、大衆的。「オペラを聴いた」という満腹感が味わえます。

 ヘザー・ハーパーのエレンも、いかにも寡婦という感じで理想的。
 ハイティンク盤のエレンはフェリシティ・ロットで、実はかなり期待していたのですが、歌声が乙女チックでちょっと違和感が。『ルイーズ』ではよかったんですけど。エレンの声に若さや希望が漂うのは興醒めに感じてしまわなくもない。

 でも、グライムズに自殺を示唆するボルストロード船長と対比させるのなら、娘らしい声でも良いのかもしれません。
「Peter, we've come to take you home.」
 エレンの言う“home”は文字通りの意味だけれども、ボルストロードはグライムズにもうひとつの“home”を教える。この狭くて陰鬱な田舎町の「良心」とも呼べる老船長こそ、人生の酸いも甘いも知り尽くした燻し銀なバリトンに担当してもらいたいものです。

 となると、アレンもちょっと違うような。この人の声には不吉なはかなさが感じられるもので、他者を受けとめる役ドコロよりも自分が煩悶する役のほうが向いているのではないかと。基本的にテンションも高いので、軽薄なネッドを歌ったデイヴィス盤のほうが、本来の魅力が出ていますネ。

 とは言うものの、そこはさすがにアレンでして、ボルストロード船長の最後のセリフを全く感情を込めずに、淡々と言ってくれている。ジョナサン・サマーズのように大袈裟に声を荒げたりはしないのデス。わかってるじゃないの、兄さん。

 虐待にせよ歪んだ愛着にせよ、少年に対するグライムズの仕打ちは、グライムズ自身の生き方の表れであり、少年の死によってグライムズは、己の本当に欲していた安らぎの正体を知るのです。ボルストロードにも、それがわかった。

「Sail out till you lose sight or land, then sink the boat」というボルストロードの言葉は、騒然と鳴り響いていた音楽のぴたりと止んだ、時の狭間のような静けさのなかに聞こえてきます。旋律が無いということは、そこに感情も、善悪の判断も存在しないということ。だから、ボルストロードのセリフもそっけないままで良いのです。

 ただ在るがまま。
 これが、グライムズの求めていた“home”であり、“死”のひとつの姿でありましょう。
 そういう洒落臭い効果を期待するなら、アレンがボルストロードをやってるハイティンク盤もまたよろしい(結局、アレンがやってりゃ何でもよろしい)。

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 DVDも観ました。
 大変良かったけど、CDでの演奏を聴いて得た以上のモノは無かったかも。
 オペラって基本的に「上演されることを前提に」作曲されるわけですが、『Peter Grimes』は音楽だけで映像も思想も確立させちゃっている感じです(タイプの違う演奏を三つも聴いたからかもしれない)。
pg4s.jpg
Peter Grimes/Benjamin Britten

Conductor: Colin Davis
Director: Elijah Moshinsky
Royal Opera House, Covent Garden in 1981

Peter Grimes: Jon Vickers Ellen Orford: Heather Harper
Captain Balstrode: Norman Bailey
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