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シェリル・ミルンズの『タイス』/マスネ [オペラ録音・映像鑑賞記]

 4月頃からなんとなく始まったブリテン歌劇マラソンですが、さすがに三半規管がおかしくなってきた模様。確固たる調性を持ち(いやブリテンだって立派な調性音楽ですけど)、かつ、キャッチーなメロディ満載の演目が、にわかに恋しくなってきました。

 というわけでお砂糖たっぷりのお菓子のような、甘い甘~いマスネの『タイス』。

 そう、あのソプラノがテノールを捨てて、バリトンと街を去るという、

 まさに、セクシー芸人ブランク先生にピッタリの、

 イヤ~ン(((*´Д`)))クネクネ なはなぢ演目!


 ただし、残念ながら、ブランク先生による全曲録音は見つからなくて、逡巡の末に手に入れたのが、
↓コチラ。

Thais

 シェリル・ミルンズ(アタナエル)、ビヴァリー・シルズ(タイス)、ゲッダニコライ(ニシアス)です。

 指揮とヴァイオリン独奏はロリン・マゼール。老修道士パレモンにリチャード・ヴァン・アラン、ニシアスの女奴隷の一人にアン・マレイの名前も見られますし、なにげに豪華。売れ筋路線。買ったのは去年の12月です。

 それから約5ヶ月。最近になってようやく全曲攻略いたしました!!(`・ω・´) ……って、さすがに時間かかり過ぎダロ!

 いえ、ね、マスネは嫌いじゃないんですヨ。つか、好きです。そうでなくても萌え度300%のエロエロ演目。こーゆーのには目が無いはずのワタクシが半年近くもグズグズと鑑賞を先延ばしにしていたのは… コラーッ、ミルンズ! おまーのベタベタな歌唱のせいじゃあッ!!

 ……ハイ、完全に八つ当たりデス。

 真面目な話、ミルンズは嫌いじゃありません。高音の出し方がビミョーに気になると言えば気になるんですが、柔らかくてイイ声してますよね。巨大声量なところも好印象。

 まっさらな状態でこのCDに出会っていれば――先にブランクで「Voila donc la terrible cite!」を聴いてさえいなければ――スルスルっと最後まで聴けて、普通に感動していたんだと思います(その代わり、多分、はなぢも出ない)。

 もしくは、あまり欲を出さずに淡々と歌ってくれていたらなぁ。いや大体においては落ち着きのある歌唱でいいんですけど、ここぞという場面で妙に色っぽく喉をひっくり返したりするもんだから∵ゞ(>ε<; )

 これはもー好みの問題なんで、ファンの方がいらっしゃったらホントにゴメンナサイなんですけど。
 ミルンズが「アイ~ン♪」とやるたびに「だあぁぁぁ…!!」と叫びながらCDを止めて、ブランクの「Voila donc la terrible cite!」を聴き直す、なんてことをしているせいで、全然先へ進めなかったというわけです。

 いや確かに、ブランクもかなりのセクシー歌唱してるんですが、なんというか、作為的には感じないんですよね。デレデレしてるけど、爽やかです。ミルンズに比べて声がハスキーだからかもしれません。

 そんなこんなで買ったばかりの『タイス』CDを投げ出してしまったわけですが、実はちょっとショックでした。ブランクの声に惚れ込み過ぎて、他の人の声じゃ聴けないカラダになってしまったのか、と。まぁ実際、当時はそれくらいの勢いでブランクの録音ばかり聴いて、イヤ~ン(((*´Д`)))クネクネしていたかも。

 救いを求めるようにアレンに浮気し、枝分かれしてブランクのレパートリーには無いブリテン・マラソンに突入して、結果「しぇんしぇーじゃなきゃヤダ~(つД`)」モードから脱することができたんですかネ。
 ある日、仕事中にふと「タイス聴きたい」という気分になり、帰りの電車でイソイソと鑑賞。一応、iPodには放り込んであったんです。それまではバレエ音楽の部分しか聴いたこと無かったですけどネ。
 初めてミルンズの歌唱を通して、流麗な旋律がストレートに耳に流れ込んできました。

 ミルンズ、頑張ってるじゃん(*´∨`)
 ちょっとベタだけど、元々が“昼メロ”演目なんだものネ。
 クネクネはしないけど、なにげにイヤ~ンな気分になってきたヨ……!!(*´Д`)

 さて、ミルンズもいいんですけど、このCDでのアッパレ大将はやはりゲッダニコライでしょう。
 脳天気な大声歌唱が、刹那的で享楽的なニシアスのキャラに似合い過ぎ!
 この人の声は本当に愛嬌があるので……『ウェルテル』の「オシアンの歌」とかもすごいですが、すごすぎて笑える。ゲッダは“悩める青年”よかニシアスです。

 それから、ビヴァリー・シルズもいいですね。
 当初、この人の声を聴いた時は、「えっ!? こんなショ○ベン臭い小娘みたいなタイスでいいの!?」なんて思ったものです。ワタシの苦手なキンキン声だし。そもそも街ひとつを丸ごと退廃させるほどのコルティザンにしては、色気が無さ過ぎやしませんか、と。マノンだったらわかるんですが。

 けど、聴き込んでいくうちに、なんか納得。タイスは思想や主義主張を持った女性じゃないんですね。美貌と若さをオモチャのようにして刹那的に生きているけれども、ヴェールを取れば、その魂は、父性愛に飢えた年端のいかぬ少女のもの。
 この二面性のどちらをアピールするかで、演目の印象も変わってきます。

 アタナエルの場合も同様で、信仰熱心な修道士と欲望にとらわれたただの男という二面性があるわけですが、どちらが真の姿かと言えば当然、後者のほうですね。で、そちらの面をより強く打ち出そうとするならば、ブランクやミルンズのようなタイプの歌手がよろしい。
 もちろん、堅物そうなオッサン声のバリトンを起用して、しだいに崩れていく様を堪能するという悦しみもある(←おあああそれも聴きたいゾ!)

 で、ビヴァリー・シルズの話に戻ると、一幕二場でのちょっと頭悪そうな誘惑的な歌から始まって、二幕ラストのヒステリックな泣き笑い、三幕での改悛の後のしおらしい様子、天に召される瞬間の宗教的恍惚まで、一人の女性の内面の変化を見事に歌い分けていると思うのです。
 娘らしい声だけに、ちょっと身につまされました。妖艶さの漂う成熟した女性の声だったら、それはそれでムードがありますが、感情移入はできなかったでしょう。

 ミルンズちゃんは悶え一辺倒なので。そこがちょっと惜しいです。

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『Thais』/Jules Massenet

Conductor: Lorin Maazel, New Philharmonia Orchestra

Thais: Beverly Sills Athanael: Sherrill Milnes Nicias: Nicolai Gedda
Palemon: Richard Van Allan
Crobyle: Ann-Marie Connors
Myrtale: Ann Murray
La Charmeuse: Norma Burrowes
Albine: Patricia Kern
Un Serbiteur: Brian Ethridge
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コメント 5

northwest

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「タイス」と聞くとつい、出てきてしまいます。
しまさんの言われる「信仰熱心な修道士」タイプはマサール版でしょうか。
「欲望にとらわれたただの男」はブランクとミルンズなのですが、もう一つバスティアニーニ版には「若さの情熱」が感じられてしまうのです。欲望に引きずられているのは確かなのですが、若いのにタイスに説教する青さが見えてしまいます。

でも、原作には
『タイスは死んだ。パフニュス(アタナエル)は絶望的に抱き締めて、希求と憤怒と愛欲から彼女に齧り付いた。
アルビーヌは叫んだ。
ー去れ、呪われし者め!-
中略
皆は修道士の顔を見たのだ。そして驚きの余り、
ー吸血鬼!吸血鬼!-
と叫んで逃げていった。
パフニュス(アタナエル)は手で自分の顔を撫でながらその醜さを感じたくらい恐ろしい形相になっていた。』
とありますから、私は欲望にとらわれたただの男解釈に一票を投じたいです。

タイス自身はドリアの方が好きです。こちらの方が大人で聖女として死ぬ様子があります。
私の理想キャストは聖女に取りすがる煩悩の男です。タイスの死の場面の完全なすれ違いが好きなので、ドリアのタイスにブランのアタナエルなら完全だった気がします。
by northwest (2007-05-13 20:40) 

しま

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>「タイス」と聞くとつい、出てきてしまいます。
ムフフ、実はnorthwestさんとタイス談義をしたかったので……(*´艸`*)

>「信仰熱心な修道士」タイプ
「Le Chant Francais」のJean Borthayre(←どう発音するんでしょうね?)のVoila donc la...がそんな感じでした。エロディアードのVision fugitiveもさほどエロくなく。
渋くて、ブランクとは対極にあるかのような声なのに、それであのアリアを歌われると妙にドキドキしちゃうんですよ。ファザコンなのかしら、ワタシ。
というわけで、マサール版も是非聴いてみたいです。

バスティアニーニの「若さの情熱」にも興味津々。そして買い物依存症に陥っていく。

>「絶望的に抱き締めて、希求と憤怒と愛欲から彼女に齧り付いた。」
ブランクしぇんしぇー…(*゚Д゚)

>聖女に取りすがる煩悩の男
そうか、タイスは聖女になったのか…。そういえば、コケティッシュなシルズはさすがに聖女っぽい感じはありませんでしたね。
確かに、聖女の亡骸にむしゃぶりつく煩悩男の図は萌えです!
ブランクしぇんしぇー…(*゚Д゚)
by しま (2007-05-13 23:41) 

ぶどう

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タイスもなかなか魅力的な演目なんですね。
とっても興味が沸いてきました。

しかし、ミルンズの悶え歌唱とは・・・。
簡単に想像がつきますねw
ミルンズは常にヌメヌメしてますからねぇ。
by ぶどう (2007-05-14 16:01) 

northwest

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Jean Borthayreはジャン・ボルテールと読むらしいです。ちなみに
文学者のヴォルテールはVoltaireです。私も彼は結構好きです、同じような曲を歌っていてもどうしても好きになれないのがミシェル・ダンスでしょうか。

「タイス」は次はバキエか、ルッフォ版が欲しいです。(まだ集める気です)

バスティアニーニの「タイス」はライブで録音がとても悪いです。ボーナストラックの「外套」(こちらはスタジオ録音)の方がおすすめです。
エネルギッシュで情熱的なアタナエルが聞けますが、私はミケーレの方がバスティアニーニの本領を発揮していると思いました。
by northwest (2007-05-14 20:21) 

しま

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◆ぶどうくん
『タイス』オススメです。…って、攻略するのに半年近くもかかったワタシが言うのもなんだけど(笑)
おフランス流のアムールな(?)バリトンのぐずりが堪能できますよ。

カプ様はフランスものとかはやってないのかな。同じマスネで、カプ様がエロディアードのVision fugitiveを歌っているのはYouTubeにありましたね。

◆northwestさん
ジャン・ボルテールですか。ありがとうございます。
ワタシもダンスは苦手で…。あの歌唱は、一体…(多くは語りません)。

>バスティアニーニの「外套」
アタナエルよりもこちらのほうが容易に想像できてしまいました(笑)
確かに良さそうですね! ボーナストラック目当てで買うのもいいかも。
でもエネルギッシュな坊さんも捨てがたいです。
ワタシも『タイス』はもう一枚くらいは欲しいです~。好きな演目の聴き比べって楽しいですよね。
by しま (2007-05-15 01:07) 

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