グロソップ×ウ゛ィッカーズの『オテロ』/ヴェルディ:2 [オペラ録音・映像鑑賞記]
土日はグロソップ×ボリス・クリストフ×カバリエの『エルナーニ』を繰り返し聴いていました。その後にまた『オテロ』を聴き直すと、楽曲のあまりの違いに驚き呆れてしまいます。
これが同じ作曲家の筆によるものかと疑いたくなるくらい、ウ゛ェルディ後期の作品群は垢抜けていますね。
先の感想で「ウ゛ェルディの感性は大ざっぱ」と書きましたけれども、それは天才モーツァルトのキャラクター造形の的確さや後輩プッチーニの心情描写の繊細さに比べてのこと。『オテロ』は、本家の戯曲よりもドラマのスケールがいくらか小さくなっていることですし、その分、音楽に「心理劇」と呼べるだけの要素が凝縮されているようです。
ウ゛ェルディのオペラはウ゛ェリズモではないんだけれども、後期作品のアリアからは技巧を誇示する音符はほぼ消え失せ、感情をストレートに押し出す力強い旋律が主になってきます。やはりウ゛ェリズモ的であるわけで、そこにウ゛ィッカーズのような“ストリップ歌手”がオテロを歌う意義もあるのではないでしょうか。 あ、“ストリップ”と言ってもホントに脱ぐわけじゃありませんヨ(そこ、なぁんだとか、言わない)。
有名歌手としての名声だとか羞恥心だとか全てかなぐり捨てて、一人の人間として、己の魂を素っ裸にして聴衆にさらすかのような壮絶な歌唱スタイル、アティテュードのことを、尊敬を込めてこう呼んでいます。
これってなかなかできることじゃない。ワタシやウタコさんが「名ストリッパー」を通り越して「裸神」と認定しているのは、今のところテノールのプラシド・ドミンゴただ一人なのです。
イギリスの声楽・オペラ界の至宝、名バリトン歌手の兄さんだって、歌唱において素っ裸になるまでには至っていない、というのが現在のワタシの評価です。気取り(小鳩ちゃんたちのハートにロックオン!!)という“余計な布切れ”がついとる!!(`・ω・´)
それじゃ、ジョン・ヴィッカーズはどうなのよ?ということになりますけれども、この人はちゃんと“脱いで”いるんですよネ。ヘタに無花果の葉で隠したりせず、堂々とすっぽんぽんになっています。
ワタシ、ヴィッカーズを初めて聴いたのは、ブランク先生がダゴンの大祭司を歌っている『サムソンとダリラ』(2種類あります♪)なのですが、「声帯から流血してるんじゃないですかね?」と心配になるくらいのダミ声と凄まじい歌唱スタイルにすっかり魅了されてしまいました。
まだそんなに多くの録音を聴いてはいないのですが、これまで聴いた中でのヴィッカーズのベスト・パフォーマンスはやはりサムソン、そして『ピーター・グライムズ』です。「ワーグナーで有名な人」と聞いていたので、ブリテンにこんなにハマるとは思ってもみませんでした。
『ピーター・グライムズ』でのヴィッカーズの感想は既に書いていますのでここでは多くは語りませんが、嵐のごとき感情をぶちまけるような彼の歌唱に圧倒され、打ちのめされた気持ちを引きずったままその後の数日を過ごしたことが思い出されます。
そのヴィッカーズが『オテロ』の題名役。グロソップ目当てで買ったCDですが、実は前々からヴィッカーズ・アイテムとして目をつけてもいたのでした。
そして、本当に素晴らしいパフォーマンスなのです。オテロの激情、苦悩、孤独、デズデーモナへの救いを求めるかのような思慕と嫉妬。同じような表現ばかり使ってしまいますが、まさに「血を吐くような」歌唱です。
現代最高のオテロ歌いと言われるドミンゴの歌唱、「裸神」だけあって、彼のオテロは気高く美しい煩悶を表現しています。
ヴィッカーズのオテロは美しくはありません。ただただ、激しい。雷(いかずち)のごとき怒り、天地を揺るがすような叫び、幼子のような哀願――。
もはや「ストリップ」ではありません。ストリップは曲りなりにもエンターテイメントなので、それなりに観客を意識した演出が必要ですが、ヴィッカーズの場合、もう歌い出しから素っ裸です。ステージ上で脱ぐのではなく、裸で普通に街中を歩いちゃっているような……!!(*゚Д゚)
こんな素晴らしい歌い手に出会えたことを、心から感謝したい。
----------------------------
グロソップの歌唱は全然ストリップじゃありませんが、不思議なことにヴィッカーズの声に大変よくマッチします。
ダミ声とヌルヌルがうまく相乗効果を上げているんでしょうか。
これが同じ作曲家の筆によるものかと疑いたくなるくらい、ウ゛ェルディ後期の作品群は垢抜けていますね。
先の感想で「ウ゛ェルディの感性は大ざっぱ」と書きましたけれども、それは天才モーツァルトのキャラクター造形の的確さや後輩プッチーニの心情描写の繊細さに比べてのこと。『オテロ』は、本家の戯曲よりもドラマのスケールがいくらか小さくなっていることですし、その分、音楽に「心理劇」と呼べるだけの要素が凝縮されているようです。
ウ゛ェルディのオペラはウ゛ェリズモではないんだけれども、後期作品のアリアからは技巧を誇示する音符はほぼ消え失せ、感情をストレートに押し出す力強い旋律が主になってきます。やはりウ゛ェリズモ的であるわけで、そこにウ゛ィッカーズのような“ストリップ歌手”がオテロを歌う意義もあるのではないでしょうか。 あ、“ストリップ”と言ってもホントに脱ぐわけじゃありませんヨ(そこ、なぁんだとか、言わない)。
有名歌手としての名声だとか羞恥心だとか全てかなぐり捨てて、一人の人間として、己の魂を素っ裸にして聴衆にさらすかのような壮絶な歌唱スタイル、アティテュードのことを、尊敬を込めてこう呼んでいます。
これってなかなかできることじゃない。ワタシやウタコさんが「名ストリッパー」を通り越して「裸神」と認定しているのは、今のところテノールのプラシド・ドミンゴただ一人なのです。
イギリスの声楽・オペラ界の至宝、名バリトン歌手の兄さんだって、歌唱において素っ裸になるまでには至っていない、というのが現在のワタシの評価です。気取り(小鳩ちゃんたちのハートにロックオン!!)という“余計な布切れ”がついとる!!(`・ω・´)
それじゃ、ジョン・ヴィッカーズはどうなのよ?ということになりますけれども、この人はちゃんと“脱いで”いるんですよネ。ヘタに無花果の葉で隠したりせず、堂々とすっぽんぽんになっています。
ワタシ、ヴィッカーズを初めて聴いたのは、ブランク先生がダゴンの大祭司を歌っている『サムソンとダリラ』(2種類あります♪)なのですが、「声帯から流血してるんじゃないですかね?」と心配になるくらいのダミ声と凄まじい歌唱スタイルにすっかり魅了されてしまいました。
まだそんなに多くの録音を聴いてはいないのですが、これまで聴いた中でのヴィッカーズのベスト・パフォーマンスはやはりサムソン、そして『ピーター・グライムズ』です。「ワーグナーで有名な人」と聞いていたので、ブリテンにこんなにハマるとは思ってもみませんでした。
『ピーター・グライムズ』でのヴィッカーズの感想は既に書いていますのでここでは多くは語りませんが、嵐のごとき感情をぶちまけるような彼の歌唱に圧倒され、打ちのめされた気持ちを引きずったままその後の数日を過ごしたことが思い出されます。
そのヴィッカーズが『オテロ』の題名役。グロソップ目当てで買ったCDですが、実は前々からヴィッカーズ・アイテムとして目をつけてもいたのでした。
そして、本当に素晴らしいパフォーマンスなのです。オテロの激情、苦悩、孤独、デズデーモナへの救いを求めるかのような思慕と嫉妬。同じような表現ばかり使ってしまいますが、まさに「血を吐くような」歌唱です。
現代最高のオテロ歌いと言われるドミンゴの歌唱、「裸神」だけあって、彼のオテロは気高く美しい煩悶を表現しています。
ヴィッカーズのオテロは美しくはありません。ただただ、激しい。雷(いかずち)のごとき怒り、天地を揺るがすような叫び、幼子のような哀願――。
もはや「ストリップ」ではありません。ストリップは曲りなりにもエンターテイメントなので、それなりに観客を意識した演出が必要ですが、ヴィッカーズの場合、もう歌い出しから素っ裸です。ステージ上で脱ぐのではなく、裸で普通に街中を歩いちゃっているような……!!(*゚Д゚)
こんな素晴らしい歌い手に出会えたことを、心から感謝したい。
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グロソップの歌唱は全然ストリップじゃありませんが、不思議なことにヴィッカーズの声に大変よくマッチします。
ダミ声とヌルヌルがうまく相乗効果を上げているんでしょうか。
タグ:ヴィッカーズ
2007-05-20 22:15
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コメント(4)
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「歌う」という行為の芯にあるのは、「演じる」ことの対極的状態だってことですな。
by ウタコ (2007-05-21 00:47)
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うむ。“歌”の起源は、そもそも人が動物だった時代の“咆哮”にまで遡れると思うのですよ。おそらくはラスコーの壁画よりも古い。
「演じる」という行為は、もうちっと知性(というか、理性)が必要なんじゃないのかな。よって、“布切れ”で局部を覆うようになって生まれた表現形態ね。
おおっと、無理無理にこじつけちゃった♪
by しま (2007-05-21 23:53)
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>人が動物だった時代の…
オペラの楽しみのひとつに、動物(的)歌手による大声歌唱、というのがありまつね。
白目、ヨダレ…なんて、まさにこれの雛型。図らずも実践している歌手を数名知っいる。
by ウタコ (2007-05-22 07:40)
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>オペラの楽しみのひとつに、動物(的)歌手による大声歌唱
それはチミだけの特殊な趣味かもしれんぜよ(笑)
>図らずも実践している歌手を数名
東の神と西の神とWの3名ですか。
by しま (2007-05-22 16:25)