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ジョナサン・ミラー演出『ファルスタッフ』/新国立劇場 [オペラ実演レポ]

sinkoku-fals1.jpg さまよえる歌人日記のyokochanさんに煽られて(笑)急きょ行ってきました。新国立劇場の『ファルスタッフ』6/21、最終日の公演です。
 ジョナサン・ミラーの演出が良いとのことで、今回の実演鑑賞の目的は主に“絵”です。

「アンタ、“絵”には興味無いって言ってたじゃないの!!」
 って、ナイス突っ込み。
 実は、あの記事を書いた時に初めて自覚したんですよネ、自分は演出を重要視していないってことを。こういうのを「無知の知」って言うんでしょうか、自覚したとたんに、これまで脳内でオート消去していた「演出:誰々」って情報も少し気になるようになってきました。

 言うまでもなく、ジョナサン・ミラーは7月のROH『コシ・ファン・トゥッテ』の舞台美術と演出も手がけた人物です。予習も兼ねて、この人の“仕事”を少しでも体感しておきたかったのでした。

 あと、『ファルスタッフ』はウ゛ェルディでも特に大好きな作品なのに、まだ一度も実演を観たことが無い!というのも、今回の観劇を決めた理由の一つ。演出だって最初の刷り込みが肝心です。

sinkoku-fals2.jpg さて、ジョナサン・ミラーの『ファルスタッフ』は、評判どおりフェルメールでした。
 以前に何かのテレビCMで、西洋や日本の有名絵画がCGアニメによって動き出す…という趣向のものがありましたが、それと似たような感覚です。17世紀の風俗絵画が、あたかも映画のように動いているような錯覚を楽しむことができました。

 ワタシは舞台全体を一望できる二階席の真ん中におりましたので、ステージ床の幾何学模様がばっちりと目に入ったのですが、これは《絵画芸術》という作品に描かれている床の模様を意識したものでしょう。

sinkoku-fals3.jpg 人物の立ち位置やなにげないポーズも、ひとつひとつが絵画的で美しい。喜劇だからといって誇張せず、どこか控えめに感じられる動作も、絵画を意識しているからではないでしょうか。

 ガーター亭でファルスタッフとフォンターナ(実はフォード)が会話を交わすシーンなど、座ったっきり二人があまりにも動かないので、はじめは違和感を覚えたほどですが、これも“絵画”だと思えば納得。
 もちろん、突然フォードがステージの端から端へダッシュしたり、ファルスタッフが川の水やワインをブーッと噴いたり、コミカルな動きもちょくちょく出てくるのですが。これも、静的なシーンがベースになっているから効果的なわけですね。

 もうひとつ気になったのがライティングです。
 フェルメールの絵画はレンブラントのように暗くないので、ステージもそれなりに明るく照らされているのですが、人物を追うスポットライトは無いんですね。なので、立ち位置によっては歌手の身体に自然な影が落ちるのです。

 ワタシは舞台演出についてはほとんど何も知らないので、スポットライトを使わないのが当たり前のことなのかわかりませんが、たぶん意図的にそうしているのだと思いました。
sinkoku-fals4.jpg このほかにもフェルメール・テイストは随所にちりばめられていて、細かいところでは窓格子の形や殺風景な壁の様子も絵に描かれている通りですし、全体的に黄色をアクセント・カラーにしているのもフェルメールな雰囲気を醸し出していると感じました。

 フェルメール・ブルーは、ナンネッタの上着がそれらしい色だったこと以外に、あまり思い出せません。ブルーの色は少なかったかな。
 最後の幕で、アリーチェの衣装がグリーンがかった青でしたが、フェルメールブルーではありませんでした。

sinkoku-fals5.jpg ワタシは観ませんでしたが、同じく新国での『ばらの騎士』もジョナサン・ミラーの演出です。舞台写真を拝見しますと、こちらは目の覚めるような薔薇色がアクセント・カラー。
 ROHの『コジ・ファン・トゥッテ』は(ビデオで見たところ)白い背景に女性達のパステル調の衣装が映えていますし、ミラーは色使いにとても敏感な演出家なのかもしれません。

 最後に、歌手について。
 印象に残っているのは、やはりタイトルロールのアラン・タイタスと、アリーチェのセレーナ・ファルノッキアです。(どちらも聴くのは初めてです)

 素晴らしいデカ声のタイタスは、中音部は重く太い腹声ですが、高音は伸びのよい華やかな声の持ち主。ヴェルディよりはワーグナーといった感じですが、かわいらしいファルスタッフでよかったです。

 セレーナ・ファルノッキアは、女性陣のなかで圧倒的な存在感がありました。声は太くて輝きのあるソプラノで、重唱が始まっても、トランペットが出張ってきても、最後の最後までかき消されません。
「ああ、オペラを生で観たんだなぁ…」という今日のワタシの満足感は、ひとえに彼女の歌唱力のお陰です。

 あ、それから、大槻孝志のバルドルフォと妻屋秀和のピストーラも忘れてはいけません。歌唱も全くあぶなげないし、日本にもこういう巧い歌手がいるんだと思うと、ちょっと嬉しくなりますね。
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コメント 5

yokochan

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こんばんは。
急遽観劇されたんですね。私もお薦めがいがありました(笑)
ご指摘のフェルメール作戦は、美しい舞台効果となってましたね。
人物の衣装のカラーまでには頭がまわりませなんだ。なるほどと思って拝見しました。
一方、狂言回しのクイックリー夫人の赤が一際目立って感じました。
最後にファルスタッフと意味ありげな行動をしてましたね。
「ばらの騎士」もそうだったんですが、舞台のあちこちにいろんな動きが巧みにあるものだから、どこをとっても目を離せない舞台に感じました。

ばら騎士でも日本人歌手は隅々まで素晴らしかったですよ。
by yokochan (2007-06-21 23:40) 

にけ

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はじめまして。私は偶然、yokochanさんと同じ日、同じ階に、見に行ったようです。フェルメール好きみたいですね。第2幕第2場は、とてもきれいでした。
トラックバックしてみようと思ったのですが、出来ているのでしょうか。
by にけ (2007-06-22 00:43) 

keyaki

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おぉ、しまさんもご覧になられたんですね。
TBさせて下さい。

>かわいらしいファルスタッフでよかったです。
ほんとに、ライモンディではこうはいきませんわ。(笑

この演出の大元といってはなんですが、イタリアの公演のリハーサルのビデオをアップしてますので、ぜひ、ご覧になって下さい。
ジョナサン・ミラーもしゃべってましたが、カットしちゃってますけど。
by keyaki (2007-06-22 01:01) 

ウタコ

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トランペットのバリバリバリ…がおとなしかったそうですな。あれが盛大だったと聞けば、聴き逃して悔しかったことだろう。溜飲が下がったヨ(笑)

本当に、ファルスタッフのカツラは落ち武者風だね…
by ウタコ (2007-06-22 12:54) 

しま

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◆yokochanさん
クイックリー夫人の赤、本当に鮮やかでした。ワタシは目が悪いので、最初は赤い人がアリーチェなんだと思ったくらいで(笑)

>舞台のあちこちにいろんな動きが巧みにあるものだから、どこをとっても目を離せない
舞台演劇の良いトコロですよね。小説や映画ではなかなかこうはいきません。
『ばら』関連ですが、コチラ↓の記事に
http://www.asahi.com/culture/stage/theater/TKY200706040200.html
「ミラーは、人間観察が趣味」とあったので、なるほどな~と感心しました。確か三谷幸喜もそうだったと思います(以前テレビでやってました)。
ホント、『ばら』も観たかったです。


◆にけさん
はじめまして。
トラバ、うまくいってないみたいです。もういちどトライしてみていただけますか。

>フェルメール好きみたいですね
そういうわけでもないんですけど、行く前から「ははぁ、フェルメールね?」と意識していたもので・・・。面白い試みだと思います。
ゴッホ・テイストの演出とか、ダリ・テイストとか、あったら楽しいでしょうね♪


◆keyakiさん
トラバ、できてないみたいで・・・。よろしければもう一度試してみてくださいませ。
ライモンディのファルスタッフは、お顔だけならけっこう愛嬌があるみたいです。オーソドックスなファルスタッフ像に近いかな? タイタスのファルスタッフはアクが強くなくて、ちょっとスタイリッシュな気もしました。
本来、ファルスタッフといったら、もうホントに脂ギッシュなセクハラオヤジで、会社で女子どもから「キモッ!」と陰口を叩かれてるよーなタイプなんじゃないかと(笑)


◆ウタちゃむ
そーなんですよ。ヴェルディ“末期”の作品で何が楽しいって、トランペットのヒステリックなトリルとグリッサンドでショ!?
そこをシッチャカメッチャカにやらかして欲しいんだけど、なんか大人しめに聴こえました。
1幕2場の女子四重唱はオケの演奏がかなりズレるし、その辺りからオケへの興味が減少してしまって・・・ちょっと残念でしたね(´・ω・`)
by しま (2007-06-23 01:31) 

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