SSブログ

キエフ・オペラ 《ラ・ボエーム》/新国立劇場 9/8 昼公演 [オペラ実演レポ]

 台風一過。日差しはなんとなく秋ですが、またもや開演ギリギリに駆け込んだ身としては暑くて死にそうなお天気でした。

 海外オペラのお引越し公演を新国でやるのは初めてとかって聞きましたが、本当ですか? 「オペラ劇場」ですから当然、音響効果は良いですし、馬蹄型の形状といい規模といいオペラの最適な“ハコ”。普通のコンサート・ホールと同じに考えてはいけないのかもしれませんが、もっと使ってもいいのにと思うファン心です。

boheme-zaseki.jpg ちなみに、オペラ劇場の客席に足を踏み入れると、木の香りがふわっと鼻孔に流れ込んできますね。あれが好き。シックな深紅のカーテンもお気に入り。深紅やボルドーはとても落ち着くので、個人的に大好きな色なのであります。

 ←写真は、本日の座席からの眺め。幕間に撮影しました。
 隅っこでもさすがはS席。乱視のワタシでも、歌手の表情までちゃんと確認できました。

 さて、本日の《ラ・ボエーム》ですが、最初に字幕用の電光掲示板にて、このようなアナウンスがありました。

 《ラ・ボエームは》パヴァロッティが最も愛したオペラです。本日の公演を氏に捧げます。

 なんとなく会場全体にホロッとした空気が満ちました。

 ワタシもパヴァロッティのロドルフォは大好きです。ゆうべは何度も、パヴァロッティによるボエームCDを聴きました。有名なだけに、普段は少々聴き飽きた感のあるオペラですが、パヴァ神が歌うと華やかさはもちろんのこと、青春の瑞々しさや郷愁がドッと胸にあふれてきます。

boheme.jpg キエフのオペラは初体験なのですが、演出はオーソドックスだし――というか、昔懐かし“棒立ち”系で、昨今ハヤりの「ミュージカルなんだかレビューなんだか前衛芝居なんだかわからん」演出に比べるとビミョーに古臭いんですが、でもこの古臭さがワタシ的には二重マル。

 一歩間違うと宝塚になりそうなメイクも好印象です。ワタシみたいな偏屈なファンにとっては、オペラは“ちょいダサ”くらいが丁度良いのダ!!(`・ω・´)

 ただ、2幕のモブ・シーンでは、もう少し群集に動いて欲しかったかな。人々が押し合いへし合いしている中に、ミミとロこのマルチェドルフォだけが寄り添って立っている……という感じだと、けっこう雰囲気が出ると思うんですけど。合唱もソリストも棒立ちだと、ちょっとネ……。

 舞台美術は満点でした。全幕を通して色鮮やかで、まるで絵巻物を見ているかのよう。これは《ボリス・ゴドノフ》の舞台なのか!?(*゚Д゚)と。
 演目が演目なので、オペラ初体験な方々もいらしたでしょうから、きっと満足されたに違いありません。

 特に、3幕の、ダンフェール門のセットの美しかったこと……!!

 これまでに観たいくつかの演出では、大抵ここの舞台美術は陰気で華が無いのです。それで良いのだと思いますけど。
 今回のキエフの演出では、暗いことは暗いのですが、書割りが濃淡のあるコバルト・ブルーで描かれておりましてね。そして、舞台中央よりほんの少し上手に立つ街灯のオレンジの光……!! これがなんとも幻想的で、寂しげなものですから、幕が上がってハープが雪のちらつく音を奏で始めただけで胸が熱くなったものです。

 実はこの回のテノール、イーホル・ボルコの出来は、あまり良いとは言えなかったのです。調子が良ければきっとスゴかったんだと思いますが、1幕目から高音が上がりきらず、この3幕でもちょっとハラハラしました。ミミ役のイリーナ・セメネンコはかなり細い声でしたし(ミミらしくて良かったですけどネ)、そんなわけで主役二人が迫力に欠ける。
 おまけに、オケの演奏も、カラヤンの濃厚な指揮に洗脳されている耳にはあっさりし過ぎ。
 ……なのですが、とにかく舞台美術が良いものですから、地味なはずの3幕が最も印象深いシーンとなって、今でも脳裏に焼きついています。

 歌手のハナシに移りますと、ムゼッタ(リリア・フレヴツォヴァ)がダントツに良かったです。男女の主要キャストの中で、最もデカ声は彼女だったんじゃないでしょうか。
 いやまぁ、声がデカけりゃいいってもんでもないですけど、東欧~ロシア系らしい声帯の丈夫そうな、力強くて輝きのある素晴らしい声でした。

 プログラムによると「ソプラノ」だそうですが、低音も痩せず、とても魅力的だと思いました。
 2幕のアリアは程よく小悪魔的で、ハスッパなんだけど憎めない女性をよく演じていたと思います。

 男声では、ショナールのヘンナージィ・ヴァシェンコが最もデカ声でしたでしょうか。ヴィブラートもかなり入って、好みの歌唱でしたよ?

 また、バリトン好きとしてはハズせないマルチェッロ、ペトロ・プリイマク。こちらもヴィブラートの目立つ力押し歌唱。メイクをするとちょっぴりパーペ似。体型も首が太くて短いガッチリ系で、ええと、かなりの勢いでワタシの好み(笑)

 やっぱりマルチェッロは肉体派の三枚目であって欲しい!!(*´Д`)

allen-marcello.jpg バリトンとして生まれたからには、二枚目ぶって主役を食ってやろうなんて気はゆめにも起こしちゃァなりませんぜ!?(`・ω・´) シャキーン

 ←兄さんのコトなんですけどね、ええ。
 ツンデレなファンとしては、このマルチェッロだけは許せない……・゚・(つД`)・゚・

 それはさておき。

 《ラ・ボエーム》は、オペラといえば“フィガロ”か“ドンジョ”くらいしか知らなかった小学生のワタシが初めて観た、モーツァルト以外の作品です。パヴァロッティの歌うオペラを初めて聴いたのもコレ。
 このチケットを譲っていただいた時には、パヴァロッティが逝ってしまうだなんて想像だにしていませんでしたけれども、これもめぐり合わせというものでしょう。

 たぶんもう暫くはオペラ・ファンを続けることと思いますが、《ラ・ボエーム》はワタシにとって、さまざまな節目に結びついた思い出深い演目の一つになりそうです。

-----------------------------

指揮:ミコラ・ジャジューラ
管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団
合唱:ウクライナ国立歌劇場オペラ合唱団

ミミ: イリーナ・セメネンコ
ムゼッタ: リリア・フレヴツォヴァ
ロドルフォ: イーホル・ボルコ
マルチェッロ: ペトロ・プリイマク
ショナール: ヘンナージィ・ヴァシェンコ
コッリーネ: ボフダン・タラス
ブノア: ヴァシーリ・コリバビュク
アルチンドロ: セルヒィ・コヴニル
パルピニョール: セルヒィ・パシューク
nice!(0)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 8

KINCHAN

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
数年前に新国立劇場でチェコのオペラ(どこかは忘れました。あちこちから来るので)で、ヤナーチェクの「イエヌーファ」を観ました。

[今ある人のサイトで99年だとわかりました。プラハ国民歌劇場でした。ベニャチコヴァ、ドヴォルスキー兄弟が出ました。そのときはドヴォルジャークの「ルサルカ」も上演されたようです。私は行ってませんが]

というわけで今回が初めてというわけではないです。他にもあったかもしれません。確かに外来オペラはまずここを選びませんね。理由は第一にキャパが1800と少ないことでしょう。文化会館でも2300、NHKホールは3500なので。

この劇場の企画時にはNBSのS木氏なども加わっていたようで、彼はもっと収容数を大きくすることを主張したようですが、結局今の数となったようです。そのあたりは何年か前の「起承転々」に書いてました。

[ところでこのコメントを書こうとするときの画面が薄くて書いていて見にくいのですが、何かの設定で変わるのでしょうか?]
by KINCHAN (2007-09-09 12:52) 

K16

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
文章を読んでいるだけで、場面と歌が頭の中で流れます。
ボエーム、やっぱり良いですね。
千歳-羽田間が往復5000円とかだったらなぁ…。

週末、CD屋に行きましたら、パヴァロッティ追悼記念としてコーナーが出来てました。
写真を見てたら、なんだか胸がつまってしまって…。
たとえ歌えなくてもいいので、生きていて欲しかったですね。
by K16 (2007-09-09 15:38) 

ぶどう

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
新国は壁が木製で落ち着いたかんじなので、とても居心地がいいですよね♪
心安らぎます(笑)。

やっぱりS席はいいですねぇ。
ぼくは
「学生席→D席→C席→・・・」
と自分の出世と共に、席のグレードもアップしていくというのを人生の密かな楽しみにしてます(笑)。
by ぶどう (2007-09-10 00:16) 

ロンドンの椿姫

TITLE:
SECRET: 0
PASS: c9008655f08b83bd99fd96be3cc994da
兄さんの出たボエーム、なんどまだロイヤルオペラハウスでは現役で使ってます。
一番古いトスカが40年数年経って遂にお釈迦になったので(他のオペラハウスに売っ払ったのですが)、これがおそらROHのレパートリーの中では一番古いプロダクションだろうと思います。私は好きなので、もうしばらくキープして欲しいものです。
by ロンドンの椿姫 (2007-09-10 00:36) 

メラノ

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
そういえば演出のセンスは群衆の動きに現れると・・言う話をどこかで読んだことがあります。
新国は音がいいんですね~。そのうち機会があったら行ってみたいです。
by メラノ (2007-09-10 14:51) 

しま

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 9ad75ec898dcbec2ba9af00361834064
またもやお返事が遅くなり申し訳ないです。
既に週末ブロガーと化しているような…

□KINCHANさん
ありがとうございます。やっぱり初めてではないんですね。素敵な所だから、条件に合致すればどんどん使っていただきたいと思います。

キャパ1800ですか。確かに少ない。
海外の劇場の来日公演ともなれば、やはり大きなハコがいいですよね。
でも新国のあのこじんまりとした感じが好きなんだよな~。

コメント入力時の文字色変えました。こんな感じでいかがですか?


◇K16さん
ボエームは聴き飽きたと言いつつ、かなり感動しました。プッチーニは美しいですね。
《マノン・レスコー》とか生で観てみたいです。

>千歳-羽田間が往復5000円とかだったらなぁ…
東京―ロンドン間が往復20000円とかだったらなぁ…(笑)

パヴァロッティは本当に残念です。あまりたくさんCDを持っていないんですが、この際買い漁っちゃおうかって気分になっています。


◇ぶどうくん
新国は内装も素敵だし、外観も日本の国立劇場にふさわしく清楚で気に入っています。
そのワリにはあまり行きませんけど(笑)

>自分の出世と共に、席のグレードもアップしていく
あ、それ素敵♪ 励みにもなりますしね。
そういやワタシは学生時代は歌舞伎座通いをしていまして、ほとんどが幕見席でした。今なら普通に前の席なんですよね…オペラよりゼンゼン安いもの。(でも行ってないけどw)

な~んて豪語してますが、こういう贅沢ができるのも独身だからなんですよね。
自由な時間があるっていいことですね。お互い、今の身分を感謝しつつ楽しみましょう~♪

◇ロンドンの椿姫さん
>兄さんの出たボエーム、なんとまだロイヤルオペラハウスでは現役
そうなんですってね(*゚Д゚)
ヴァラリンさんの“ダーリン”がコッリーネやった時に知りました。昨年でしたっけ。なんか衣装も同じだったような。

ワタシもあの演出、好きです(なんか、パリじゃなくてロンドンっぽいけど)。
よほどの力作じゃなければ新演出はやって欲しくないな~。
しかし、ワタシの“ハニー”のマルチェッロがキモいことには変わりありません(笑)


◇メラノさん
>演出のセンスは群衆の動きに現れる
やっぱり、そうなんだ!! 難しそうですもんね。
オペラって、けっこう魅力的なモブ・シーンがありますよね。カルメンの終幕とか、マノン・レスコーの1幕とか、音楽でうまくその雰囲気を表現していると思うのですが、演出によってはそれを壊してしまうので、残念だなぁと思うことが時々あります。

>新国の音
内装が木なので、音響効果が高いんだと思います。こだわる人だと、椅子に柔らかいクッションがついているのもダメなんだそうで。
新国の椅子はクッション付きだから、微妙なのかな(笑)
メラノさんは京都でしたっけ。機会があったら新国でお会いしたいですね♪
by しま (2007-09-15 12:13) 

メラノ

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
あっ、やっぱり弥勒様なんだ、しまさんは。(笑)
私は、中宮寺や広隆寺の弥勒様をイメージしていました。驚き~。
by メラノ (2007-09-17 08:04) 

しま

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 9ad75ec898dcbec2ba9af00361834064
◇メラノさん
コレ↓ですネ。我ながらソックリだす(ノ∀`)タハー
http://www.y-uruwashi.gr.jp/bosatu.html

昔はコンプレックスだったんですが、30過ぎたら開き直っちゃいましたヨ。
最近は化粧でいかに目を細長く見せるか研究中だったりします(笑)
by しま (2007-09-19 00:07) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。