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《魔笛》/Royal Opera House [オペラ実演レポ]

Royal Opera House の《魔笛》、2008年2/22, 2/23, 2/26 の感想を一気に。

 マクヴィカーの演出については後日まとめるとして、本日は歌手についての感想です。

 既にどの日がどのキャストだったのかビミョーにわからなくなってきました。当日配布しているキャスト表、貰ってくるのを忘れたもんで(爆) 記憶違いがあったらごめんなさい。
 (画像はコチラコチラから借りてます)

 あらすじはウィキペディアを参照ください(自分で書くのが面倒だもんで。すんまへん)。

roh-mateki08-1.jpg さて、何はともあれ、まずはサイモン・キーンリーサイドについて語らねばならないでしょう。ROHの《魔笛》に無くてはならない存在です。

 彼のこのパパゲーノ。DVDで事前に観ていましたし、魅力的な歌手ですよね。
 
 歌唱については文句ナシだし。時に「兄さんよか技術あるわ」「低音がよく出てるわ」ってな理由でジェラシーを感じることだってあるくらいです(笑)

 でも、一言、言っていい?

 ガクブルしながら言っちゃいますよ?

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 暗いわっ!



 どーしてこんなにネクラなの?



 いえね、結果的にパパゲーノというキャラが斬新になっているのはわかるんです。このキャラが大変ウケているのも、実際に観てよ~くわかった。

 暗いといっても、挙動はとってもかわゆいです。ドタバタ系で笑いを誘うし。ぴょんぴょん跳ね回って元気です。むしろ元気すぎるくらい。体操選手並みの運動神経の持ち主です。

 単にカワイイだけじゃなくって、ヘタレさが加わっているのも、パパゲーノとして面白いかな。

 現代のヒーロー像ってそうでしょう。映画でいうと、『ダイ・ハード』シリーズが出てきたあたりから顕著ですよね。ヒーローが“超人”じゃなくなったのね。むしろ“ヘタレ・キャラ”がヒーローになる。

 本来、《魔笛》のヒーローはタミーノです。パパゲーノは賑やかしにくっついて来るだけで、後半はストーリーの柱(この破綻した物語にそんなモノがあるとすれば)からは完全に逸れていきます。

 けれども、このパパゲーノのヘタレさ(何度もスマン)が、不思議な求心力を持っている。そして、マクヴィカーによる《魔笛》のテーマ設定によって、パパゲーノもちゃんとヒーローになっているのではないかと。手柄はタミーノだけのものじゃないのね。

 詳しくはこの後の記事で語りますが、キーンリーサイドの「暗さ」「生真面目さ」(本人はそうじゃないのかもしれないけど、歌唱を聴いている限りではそう感じる)が、この演出の鍵なのかなと思いました。

 ただ、まぁ、正直に言っちゃうと。ベリーやプライに洗脳されて、渡英前にはアレンのニヤけたパパゲーノ気持ちが悪くなるくらい聴いておった私ですので。キーンリーサイドのこの暗さ、特に「Ein Mädchen oder Weibchen wünscht Papageno sich!/可愛い女の子か奥さんがいたら」のヘロヘロぶりにはかなり引いてしまいました。

 影響を受けやすい性格なもので、観ているこっちまで鬱になるのよ(´・ω・`)

roh-mateki08-2.jpg Bキャストのクリストファー・マルトマンのパパゲーノにはホッとしました。彼は脳天気で明るいパパゲーノを演じていましたので。声も厚くて明るいですし。

 好き/嫌いだけで判断するなら、私の好みはオーソドックスなマルトマンです。

 で す が 。

 どちらが心に残るかと言われれば、当然キーンリーサイドのほうですよね。
 マルトマンのほうだけを観ていたら、パパゲーノについてこんなに熱く語ろうなんて思わなかったことでしょう。安心して見ていられるけど、新しさは感じなかった。

 斬新さって、時に受け手に“不安”を与えたりするものです。これまでの価値観が揺さぶられるわけだから。

 そして芸術とは、価値観をぶっ壊しては再建する、与える側と受け取る側との闘いなわけで。今回もそれを痛感させられた次第。
 つまるところ、それがキーンリーサイドの魅力だと思うんだな。好みの問題を超越して、迫ってくるものがあるんだもの。

 さて。
 パパゲーノ以外のキャラでも、聞き比べ・見比べの楽しみがありました。

 まず、夜の女王。

roh-mateki08-3.jpg
 22日がアンナ・クリスティーナ・カーポラ、23日と26日がエリカ・ミクローサでしたが、私の好みは断然ミクローサ。

 外見もギスギスしていて冷酷な母親にピッタリだったし、それよりも何よりも歌唱が素晴らしかったですね。硬質で安定した歌声で、コロラトゥーラも絶品でした。

 こちらの記事で、「高音を出す時に頬の筋肉をキュッと引き上げる」のを見るのが好きと書きました。ミクローサの時もそれをちゃんとチェックしてたんですが、この人が口を開けると本当に怖いんです。まるで蛇女みたいで凄みが増すのよ。
 だからますます夜の女王にピッタリで、声にも容姿にもゾクゾク。

 一方、カーポラの歌唱はモタモタした印象でした。

 夜の女王のアリアは2つあって、私は1つめの「O zitt're nicht, mein lieber Sohn!/ああ、怖れおののかなくてもよいのです、わが子よ!」 が好きなんですけど、ラストのトリル直前の最高音、カーポラの声がとにかく汚くてですね。その瞬間、ああ今夜の女王は期待できないと思ったものです。

 ところで、パミーナですが。
 私の萌えの公式によると、母親の女王が軽くて冷たいコロラトゥーラだからこそ、娘のパミーナは低音にも強い肉感的なソプラノ。

 なので、DVDのドロテア・レッシュマンなんか最高です。

 パミーナは、22日がケイト・ロイヤルで、23日と26日がゲニア・キューマイヤーだったかな。
 どちらもとてもよかったですが、軍配はキューマイヤーに上げておきます。声に体温と体臭が感じられたから。それでいて可憐さもタップリだしね。

 残念ながらタミーノの印象はまったく残っておりません。やはり、二人の歌手で観たんですが、どっちがどっちだったかすら覚えていない;;; 「悪かった」という印象も無いんですけどね。
 すみません、ワタシ、テノールには興味がなくて。特にモーツァルト・テノールは辛いところです。

 最後にザラストロなんですが、この役は3日ともスティーヴン・ミリングでした。

 大変残念ながら、私が期待していたような歌唱ではなく、物足りなかったというのが正直なところです。

 外見は大満足なんですが、声がね。響きはとても綺麗なんですが、密な感じがしない。重さが足りない。
 これは完全に好みの問題なので、ミリングが悪いんじゃないんです。

 特に22日の弁者はロバート・ロイドでしたから、いろいろと複雑な思いが交錯しちゃいました。私が持っている兄さんの《魔笛》CD、ザラストロはロイドなのでして。そしてそのザラストロが大好きなもので――。
 ミリングたん、ゴメンネ。


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 ◇おまけ◇
 トーマス・アレンの弁者はけっこう評判が良かったようです。コチラ

Sir Thomas' feeling of text, his gravitas and his charisma were outstanding in this performance – one even noticed his presence for a few spoken lines in the large scene at the start of the second act.

 ですってサ(*´∨`)


 次回はマクヴィカーの演出について。


 ※Sardanapalus さんの感想記事も、是非お読みくださいね!
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コメント 9

ぶどう

TITLE:
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>既にどの日がどのキャストだったのかビミョーにわからなくなってきました。

ぼくも同じくこれを体験中です(^_^;)
幸い同じオペラは観てないものの、帰国してからさて感想書こうかなってなると、結構記憶が薄れてきますよね・・・。
やっぱりその場である程度メモしておくべきなんでしょうか・・・。

>1つめの「O zitt're nicht, mein lieber Sohn!

これって「アッハッハ~」じゃないほうですよね?
ぼくもこっちの方が好きです。
しかもこっちの方が難しそうですよね。
by ぶどう (2008-03-15 03:22) 

edc

TITLE: 魔笛、マテキ、まてき・・・
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こんにちは。観劇記、楽しませていただきました。キャストが一部入れ替わっての数回連続観劇だと、ややこしくなりますね。

この演出は私もテレビで見ました。夜の女王が気にいったものです。パパゲーノはかなり異質。ネクラというか深刻な雰囲気のパパゲーノは初めてでした。タミーノ的性格。もうひとつキーンリサイド・パパゲーノを見ましたが、コミカルな動きにもかかわらず共通の性格を感じます。(スカラ座1995年)

私の刷り込みパパゲーノは映画「アマデウス」+ブレンデル・パパゲーノ(ミュンヘン映像)です。映画のほうはシカネーダが演じていたせいか、お気楽鳥人間の深層はもしかしたら、ちょっと・・アブナイかも・・という雰囲気がありませんでした?ブレンデルにはそういうところが感じられないのが、ほんのちょっと残念でした。

>タミーノの印象はまったく残っておりません
映像も録音も山ほど視聴ましたが、印象的なタミーノ(除くペーター・ホフマン)っていませんでした・・いつも影が薄い。パパゲーノが魔笛の主役に思われて当然かも。やっと新国のふたつめの「魔笛」で、主役にみえる素敵なタミーノをみることができました。

実は「魔笛」って、長いことパパゲーノの歌と夜の女王のアリアだけがおもしろいと思っていました。それだけのためと、魅力的なタミーノを求めて、録音、映像、実演(これは2度だけですけどね)遍歴してきました。

そして、好きな歌手だからというだけかもしれませんけど、ペーター・ホフマン・タミーノの録音を聴いてはじめてこのオペラがおもしろいと思いました。

>エリカ・ミクローサ
メトの放送の夜の女王ですね。英語で歌っても迫力満点、怖くてよかったですねぇ・・

魔笛の記事たくさんありますが、いくつかTBしてみます。サイドバーに「オペラ索引」があります・・。
by edc (2008-03-15 08:29) 

しま

TITLE:
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■ぶどうくん
観終わった瞬間は、「アレもこれもネタにしよう!」なんて思うんだけど、いざ書こうとすると「あれ、これだけだったかな?」と(^^;
まぁ忘れちゃうってことは、わざわざ皆に伝えるほどのことでもなかったんでしょうけど。

>>1つめの「O zitt're nicht, mein lieber Sohn!
>しかもこっちの方が難しそうですよね。
出だしは穏やかなんだけど、後半のコロラトゥーラ部分になるとすごいエキセントリックになりますよね。
あれれ、この夜の女王、何か“裏”があるのでは?と思わせる曲になっているのかな?なんて思います。
素人だからよくわかりませんけど、私も実はこっちの歌のほうが難しいんじゃないかって気がします。


■edcさん
>コミカルな動きにもかかわらず共通の性格

そうなんです。動作は機敏でコミカルなのに。でもってモーツァルトの旋律も明るいでしょう。だから彼のあの暗さ、深刻さが、病的にすら感じちゃって。
でも、そこが“味”なんですよね。パパゲーノも類型的なキャラだから、それこそブラナーの映画のパパゲーノみたになっちゃったら逆に萎えます。

>映画のほうはシカネーダが演じていたせいか、お気楽鳥人間の深層はもしかしたら、ちょっと・・アブナイかも・・という雰囲気がありませんでした?

あの「アブナイ」パパゲーノは大のお気に入りです!
やっぱ俳優ってスゴイ! 昨今、歌手の演技力もなかなか向上してますけれども、ああいう風にできないよなぁ~と思います。
歌手は歌で勝負、俳優はオモシロ顔と演技力で勝負。(監督曰く、ひどく音痴だったそうですねw)

ところで、ペーター・ホフマンもタミーノやってるんですね。彼が歌えば、存在感あるでしょうね。
私はゲッダニコライの魔笛DVDを入手しようかと検討中です。弁者はフィッシャー=ディスカウだし(笑)
by しま (2008-03-15 12:36) 

Sardanapalus

TITLE:
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この「魔笛」にご一緒できて、しかも着物でも鑑賞できて、最高でした♪しまさんの苦手なオペラということで、演出や歌手が好みに合わなかったらどうしようかと思っていましたが、楽しんでいただけたようで、ROH贔屓の身としてとても嬉しいです☆

>どーしてこんなにネクラなの?
マクヴィカーの演出は、仰るとおりパパゲーノの「思い通りにいかない孤独な人生へのあきらめ」みたいなものがクローズアップされていますね。こんなに考える性格だとはとても思えませんが、結構斬新ながらも、パパゲーノの言動を聞き直してみるとなるほどと納得できてしまう解釈だと思います。またキーンリーサイドだと余計におふざけ度が下がるというか、人生に疲れたような物悲しい雰囲気が漂う気がします(笑)マルトマンとの比較、楽しく読みました。

>残念ながらタミーノの印象はまったく残っておりません
確かに、こういう「顔で笑って心で泣いて」いるようなパパゲーノ像は、のっぺらとしたタミーノよりもうんと存在感があります(^^;)人生上手くいかないことも多いですから、親近感も覚えますよね。タミーノは、綺麗にアリアを歌ってはい、おしまい。という感じ?歌の見せ場も前半に偏っているので印象が残らないです。パパゲーノは毎回注目してますがタミーノにときめいた記憶は無いですねぇ(^^)

私のほうもスローペースですが記事をアップ中です。「魔笛」のことを書いたらTBしに来ますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
by Sardanapalus (2008-03-16 01:12) 

ロンドンの椿姫

TITLE: 暗い方がいいです
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私もキーンリーサイドはパパゲーノじゃなくて、うんと暗い役のほうが絶対向いてると思いますよ。
こないだのトーリードのイフィジェニーはとてもよかったし、ちょっと年齢的に限界なビリーバッドもさすが。「1984」の彼は最高だったし。今度のドンカルロが楽しみ。
by ロンドンの椿姫 (2008-03-16 09:26) 

しま

TITLE:
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■サルダナさん
こちらこそ、サルダナさんとご一緒できてとっても良かったです。ありがとうございます。着物も着られてとっても幸せ。

>苦手なオペラ
まぁモーツァルトですから、まだ救いが(笑)
今更ドンジョってわけにもいかないですしー。

>「顔で笑って心で泣いて」
それが、私には「顔で泣いて心で笑って」と見えたりして~(*゚Д゚)
アレンの場合は(歌唱から想像する限りでは)「顔でカワイコぶって心でエロ」って感じですか(笑)
マルトマンは飄々として、裏表がなかったです~。

>タミーノにときめいた記憶は無いですねぇ
お互い、バリトン好きですしね♪

>TB
モチロンです。あと1回、《魔笛》について書きますから、その時はこちらからもどうぞよろしく。


■ロンドンの椿姫さん
>うんと暗い役
歌手によっては何を歌ってもヘラヘラしてるように聴こえたりしますし(パヴァロッティとか)、暗い役に向いているというのも貴重ですよね。
歌唱はそれほど暗くはないと思うんですが、原因はやっぱり……シ……ゴホンゴホンッ……「お顔」かな……;;;

まぁ男性は陰があるほうが絶対に素敵です。ロドリーゴとか、いいですよね♪
by しま (2008-03-16 20:58) 

メラノ

TITLE: う~ん、やっぱり。
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キーンリーサイドは暗かったですか!
最近顔がなんだか疲れていて寂しげな感じですよね。年齢的にも無理があるのかも。
若い時は元気で可愛いパパゲーノだったのになぁ・・。


ミクローサって凄そう。
「シャ~ッ」なんて声が聞こえてきそうです。
by メラノ (2008-03-18 17:02) 

しま

TITLE:
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■メラノさん
はい、暗かったです(キッパリ)。
でもマイナス要素じゃないんですよ。それはそれで“味”だし、陰のあるパパゲーノってことで、胸がキュンッとなる女性も多いと思うし。
当日も、温かい笑い声があちこちから聴こえました。

私はほら、既にアレン・パパゲーノを心に飼っていますから、新しいキャラを迎え入れる余裕がネ…;;;

>「シャ~ッ」
手塚治虫のマンガにそういうキャラが出てきそうですよね(笑)
by しま (2008-03-18 20:33) 

keyaki

TITLE: エリカ・ミクローシャ
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>エリカ・ミクローサ
の記事をブログに書きましたので、お時間のあるときに見てやって下さい。
by keyaki (2008-04-29 19:29) 

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