SSブログ

《消えた男の日記》 -- ゲッダニコライとブラフトによる歌曲盤 [オペラ録音・映像鑑賞記]

ヤナーチェク・ゲッダ.jpg ヤナーチェクの歌曲《消えた男の日記》、ニコライ・ゲッダによる録音を入手しました。

 初聴がきらきらしく編曲されたオペラでしたので、原曲のピアノが耳にたいへん新鮮。オペラの場合は全曲をひとつに繋げて、ライブ感たっぷりに演奏されていましたが、実は原曲は22曲に分かれています。その一曲一曲、そのまた一節一節を、ぽとん、ぽとん、と大粒の雨のしずくが垂れているかのように途切れ途切れに演奏しています。ドラマへの牽引力のあったオペラとはかなり印象が違います。

 しかし、素朴なだけに、文明から隔絶された東欧の森のイメージが浮かびますし、人の心の深層に指先で触れるような感覚が得られるように思います。

 オペラの場合は、クライマックスの解放の瞬間まで、とにかく一直線に驀進しました。原曲版ですと、主人公の男の葛藤のひとつひとつを、それこそ日記にしたためるのと同じ具合に音符に変換しているといった印象があります。

 より男の心情が伝わってくるということで、やはりこの作品はピアノ伴奏の歌曲として作られたのだなぁと思います。
 が、この作品のオペラ上演は、今回のパリ国立オペラ来日公演が初めてではなく、1926年にスロベニアのリュブリャナで、1943年にはチェコのブルゼニュで舞台上演をされているそうです。さらに1969年、1980年に映画化もされているとのこと。やはりこの作品のドラマ性に魅せられて、なんとか可視化したいと考える芸術家も多いんですね。録音があるのなら、当時のオーケストレーションをぜひ検証してみたいもんです。
--------------------------------------------------
gedda.jpg あらためて歌曲版で聴きなおしてみましたが、ストレートなだけに、旋律の痛々しさは倍増でした。ですが、ゲッダニコライのオモシロ歌唱だとどうも……。声がニヤけ過ぎ、明る過ぎ、ヴィブラート揺れ過ぎ、デカ過ぎなんですねぇ。どこをどーひっくり返しても、田舎の純朴な青年の趣きなんて感じられません。

 まぁ、そこがゲッダくんの良さなのでして、この人のこの歌唱のおかげで、趣味じゃないオペラも楽しく笑いながら聴けるんですけど。このCDも名盤だと思います。ゲッダニコライ愛好家として、素晴らしいコレクターズアイテムを手に入れた!!と狂喜乱舞しております。ラストのハイCも大したモンですし。

 そして、これまた大変気が効いていることには、このCD、ゲッダくんの後にベノ・ブラフト(1913-1985)というチェコの名テノールによる同作品の全曲録音が入っているんです。
 しかも、伴奏は同じピアニスト、ヨゼフ・パーレニーチェク。その心は、「ゲッダニコライで笑った後は、ブラフトによる“正しい”《消えた男の日記》を聴きましょー」ってコトなんでしょうか(笑)

 ブラフトという歌手は、ワタクシ初めて聴ききました。決して好きなタイプのテノールではありませんが、このCDの対決(?)では断然ブラフトに軍配が上がります。

 第一声から世界観が違うのです。ま、ゲッダくんも、第一声から「ゲッダですよー!! お客さぁぁン!!」ってな、ジャパネットた○た的ハイテンションな世界観を確立していますがw
 旋律にぴったりはまった声、とでもいうのでしょうか。哀願、渇望、諦観がこれほど胸に迫る歌唱も久しぶりです。他の作品でもこのような歌い方をしているのかはわかりませんが、倍音の少ない生々しい声で(そこが好みじゃないわけですが、この際どうでもいいんです)、直情的でありながら下品にはならない、美しく力強い歌唱なのでした。

 今後、ヤナーチェクのオペラを聴き込んでいくにあたって、無視できない歌手でありましょう。

------------------------------------
《消えた男の日記》 ~テノール、あると、女性三部合唱とピアノのための

・1984年
ニコライ・ゲッダ(T)
ヴィエラ・ソウクポヴァー(A)
プラハ放送室内女声合唱団
ヨゼフ・パーレニーチェク(P)

・1956年
ベノ・ブラフト(T)
シチェパーンカ・シチェパーノヴァー(A)
チェコ・シンガーズ室内女声合唱団
ヨゼフ・パーレニーチェク(P)


-------------------------------
ヤナーチェク作品 関連記事リンク
《消えた男の日記》 ヤナーチェク/パリ国立オペラ来日公演1
トーマス・アレンの『利口な女狐の物語』


nice!(0)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 6

straycat

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 671b7c6d831d522c204b0a453579f832
しまさん こんにちは♪
パリ国立オペラ来日公演の「消えた男の日記」のレポの方も読みましたが、まるで実際にオペラを見ているかのよう、とても描写力があって感心しました。大変興味深かったです。私もかなりこういうシュールというか人の奥深い心理を描くような作品好きなんですよ。実際に見てみたかったです。確かに映像向きだし、この演出面白いですね。オペラといっても「昼ドラ」タイプからこういう「難解」タイプまで色々あるんですね。
by straycat (2008-09-04 20:35) 

しま

TITLE: straycatさん
SECRET: 0
PASS: 9ad75ec898dcbec2ba9af00361834064
■straycatさん
こんばんは。
パリ国立オペラの「消えた男の日記」がとても素晴らしかったので、勢いで原曲も楽しんでおります。
でも、オペラも原曲も、特に難解というわけではないんです。音楽も聴きやすいし、ストーリーもまとめてしまえば単純ですし。
もしも「難解」と感じるとすれば、それは演出のせいかな? あの「穴」の意味に気づけば全てが繋がるんですが、一見、目の前で繰り広げられていることと歌詞の意味が結びつかないんで。

ストーリーが昼ドラでも、演出によってはいくらでも深みを出せますし、そこが面白いところですねー。
by しま (2008-09-05 00:06) 

yokochan

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
こんにちは。
ゲッタのこのレコードが出たときに話題になりました。
あとシュライヤーも録音していたはずですね。

私は原曲は実はまだ聴いてませんで、手持ちには、アバドとベルリンフィル、テノールがラングリッジというオケ版があります。アバドはスラヴものを指揮するとかなり渋い演奏をしますので、なかなかであります。
弊bolgでも取上げようかと思ってます。

それにしても、ジャパネットた○○氏には、笑えますのう!
by yokochan (2008-09-07 14:29) 

ラテ

TITLE:
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
ゲッダってこんな顔してたんだ・・・・。
なんか・・・・プ(←失礼)
この人がナディールだのロドルフォだの歌ってたんだ。。。

あまりにも声のインパクトが強すぎて今までこの人の実体に思いを回らすに至らなかったです。
なんか、ワタイの中では身体があって、顔のトコに≪ゲッダ≫と書いてあるみたいな・・・・そんな記号っぽい認識でした。この人。
(冷静に考えたら声だけあって姿がなかったら逆に怖いって!)
by ラテ (2008-09-07 15:14) 

しま

TITLE: yokochanさん
SECRET: 0
PASS: 9ad75ec898dcbec2ba9af00361834064
■yokochanさん
こんばんは~。

>アバドとベルリンフィル、テノールがラングリッジというオケ版

へぇぇぇ~(*゚Д゚) そんなのがあったんですか。知らなかった。
原曲盤もいいんですが、やっぱりオケから入ったから、オケ盤で聴きたいな~。
ラングリッジの良い意味で脆弱さの感じられる歌唱も、合っているんじゃないでしょうか。次はその録音をねらいます。

>弊bolgでも取上げようかと思ってます。

是非、お願いします♪
残念ながら、yokochanさんのブログだと私の側からTBができないのですが。
ゲッダのも是非是非お聴きになってください。
by しま (2008-09-08 00:30) 

しま

TITLE: ラテさん
SECRET: 0
PASS: 9ad75ec898dcbec2ba9af00361834064
■ラテさん
こんばんは~。

>なんか・・・・プ

でしょ、でしょ!?
こんなのがドン・ホセやらウェルテルやらを歌ってるんです(笑)
歌唱だけじゃなくて外見のインパクトも大!!! これ、スター歌手の必須要素ね。

究極にニヤケたロドルフォはこちら↓
http://jp.youtube.com/watch?v=HUkJVwMNeHM
ミミ役の女優が必死に笑いをこらえているように見えるのは、私だけではないはずです。
by しま (2008-09-08 00:41) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。