《カルメン》@Royal Opera House 10/24 [オペラ実演レポ]
かなり時間が経ってしまいましたが、10月の追っかけ旅行の際に鑑賞した《カルメン》について、思い出を記録しておきます。
10/24(土)。昼にアレンの《ジャンニ・スキッキ》を観てから少しだけロンドン観光をした後、ロイヤルオペラハウス(ROH)へとんぼ返り。この劇場へ行くのはこの日で通算9度目になりますが、1日に2回も通ったのはさすがに初めてのことでした。
実は、同じ日の同じ時間に、イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)でブリテンの《ねじの回転》を上演しており、どちらに行こうか直前まで悩みました。
結局ROHの《カルメン》を選んだのは、主要キャストが豪華だったから。
なにしろエリナ・ガランチャのカルメンに、ロベルト・アラーニャのドン・ホセ。エスカミーリョはイルデブランド・ダルカンジェロです。
本場イギリスで見るブリテン演目というのも、これが《ピーター・グライムズ》か《ビリー・バッド》であったのなら迷わず飛びついたと思いますが、せっかくの海外オペラ鑑賞ということでスター歌手を選んだ私。オタク心よりミーハー精神のほうが勝っていたということです。
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この日の座席は、ストールズ・サークルの右側の、とっても舞台に近いところ。オーケストラ・ピットの真上のベンチシートです。
ステージの右側は完全に見切れますし、ライトが下がっていたりして視界はちょっとお邪魔なのですが、実はココ、お目当ての歌手にとっても近くて、表情の細部まで細かく観察することができます。声もオーケストラに被らずに、ダイレクトに耳に入ってきますので、迫力も満点。料金はたったの14ポンド(現在のレートで、2,000円ちょい)!!
ROH《ラ・ボエーム》のように、クライマックスシーンが舞台右端でばかり繰り広げられるような演出では避けたい席ですが、今回の《カルメン》なら大丈夫、との、ご一緒させていただいたロンドンの椿姫さんの事前情報もありましたし、実際、お値段の数倍ものお得感のある体験ができたと思います。
我らが新国立劇場にも、4階のZ席以外にもこういう席を用意してあれば、もっともっとオペラ愛好家の裾野が広がると思うんですけどねぇ…。
しかし、こんな豪華キャストをこんなお得な料金で楽しむ稀少なチャンスであったにもかかわらず、私は2幕の途中から居眠り…。ここぞというアリアでは頑張って目を開けていましたが、記憶は途切れ途切れです。
前日にロンドンに着いたばかりでしたから時差ボケもありましたし、昼間はアレンのお腹に密着して興奮しまくっていましたから、疲労のピークだったんでしょう。
ROHの《カルメン》は06年に新演出に差し替えられ、今をときめく変り種テノールのヨナス・カウフマンがドン・ホセを歌ったこともあり、日本でも有名なプロダクションです。疲れていたとはいえ、居眠りだなんて勿体無いことをしたものです。
そんな中、覚えている限りの印象をまとめます。
まず、ガランチャのカルメンですが、歌はとっても巧い。声も良い。容姿については言わずもがな。しかし、彼女なりのカルメンというキャラクター性を確立させるにはまだまだ・・・という感じでした。
カルメンというのはもっと泥臭い、鬱陶しいくらいの女だと思うのですけど、ガランチャはどうも現代的な透明感がありすぎるんです。ヒロインとしての存在感は大したものですが、生真面目な男を破滅に引きずり込む魔力とでも言いますか、ファムファタル的な嫌ったらしさは感じられない。無臭なんですよね。カルメンって、もっと雌の臭いがすると思うんです。
歌はとても巧いので、聴いていてストレスは無いのですが、時差ボケでぼうっとしている私をドラマに無理矢理引きずり込むほどのフックが、いまいち弱かったです。
とはいえ、それはもう、美しいカルメンでした。これからも回数多く歌う役でしょうから、また何年か経って、ガランチャなりの嫌らしさを醸し出せるようになった時のカルメンをもう一度観てみたい。そして「おお~!!」と唸ってみたいと思います。
今回、「来てよかったなぁ~!!」と思えたのは、ロベルト・アラーニャの力が大きかったです。
アラーニャ、初めて生で聴いたのですが、スター歌手と呼ばれるからにはちゃんと根拠があるものだと、当たり前ですが、改めて納得させられました。
と言いつつ、実は『花の歌』では半分くらい眠っていたのですが(←コラーッ!!)、2幕のカルメンとの重唱とか3幕のエスカミーリョとの決闘とか、もちろんラストのカルメンを殺しちゃうシーンでの絶叫とか号泣とかはちゃんと押さえてあります。
これまであまりアラーニャという歌手を知ろうとしていなかった私なんぞが今更言うことでも無いのでしょうけど、ドン・ホセはまさにアラーニャの役だと思いました。いやもう、ほんと、凄かったです。
ダルカンジェロのエスカミーリョは、上記の2人に比べると存在感が薄かったように思います。
エスカミーリョという役には私はかなり口うるさいので、たぶん誰が歌っても100点満点は出せないんですが……。
まぁ、それを差し引いても、ダルカンジェロの歌唱は地味っぽいので、エスカミーリョには合っていないのかもしれません。フィガロのような役であれば、けっこう良かったので。
ドン・ホセを嫉妬に狂わせる一因として、エスカミーリョというキャラがあるわけですから、出番は少なくともそれなりの華と色気と存在感をアピールしなければならないんですよね。難しい役だと思います。
ミカエラはLiping Zhang。中国の方でしょうか。特に難はありませんでしたが、それほど心には残りませんでした。
脇役で最も光っていたのは、フラスキータ役の中村恵理で、ロンドンの椿姫さんをはじめ同行の方々と、「中村さんがミカエラを歌えばいいのに~」なんて、幕間でさんざん話したものでした。
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関連記事リンク
◇《カルメン》新国立劇場11/25(日)
07年の《カルメン》実演鑑賞レポ。エスカミーリョはA・ヴィノグラドフ。ネタあり。
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◇【デレカント唱法】/歌唱用語 [オモシロ歌唱事典]
往年のバリトン歌手、エルネスト・ブランクのエスカミーリョ試聴ファイルあり。
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CARMEN
Opera Comique in Four Acts
Composer : Georges Bizet
Director : Francesca Zambello
Designer : Tanya McCallin
Conductor : Bertrand de Billy
Carmen : Elina Garanca
Don José : Roberto Alagna
Escamillo : Ildebrando D'Arcangelo
Micaëla : Liping Zhang
Moralès : Changhan Lim
Zuniga : Henry Waddington
Frasquita : Eri Nakamura
Mercédès : Louise Innes
Le Dancaïre : Adrian Clarke
Le Remendado : Vincent Ordonneau
10/24(土)。昼にアレンの《ジャンニ・スキッキ》を観てから少しだけロンドン観光をした後、ロイヤルオペラハウス(ROH)へとんぼ返り。この劇場へ行くのはこの日で通算9度目になりますが、1日に2回も通ったのはさすがに初めてのことでした。
実は、同じ日の同じ時間に、イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)でブリテンの《ねじの回転》を上演しており、どちらに行こうか直前まで悩みました。
結局ROHの《カルメン》を選んだのは、主要キャストが豪華だったから。
なにしろエリナ・ガランチャのカルメンに、ロベルト・アラーニャのドン・ホセ。エスカミーリョはイルデブランド・ダルカンジェロです。
本場イギリスで見るブリテン演目というのも、これが《ピーター・グライムズ》か《ビリー・バッド》であったのなら迷わず飛びついたと思いますが、せっかくの海外オペラ鑑賞ということでスター歌手を選んだ私。オタク心よりミーハー精神のほうが勝っていたということです。
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この日の座席は、ストールズ・サークルの右側の、とっても舞台に近いところ。オーケストラ・ピットの真上のベンチシートです。
ステージの右側は完全に見切れますし、ライトが下がっていたりして視界はちょっとお邪魔なのですが、実はココ、お目当ての歌手にとっても近くて、表情の細部まで細かく観察することができます。声もオーケストラに被らずに、ダイレクトに耳に入ってきますので、迫力も満点。料金はたったの14ポンド(現在のレートで、2,000円ちょい)!!
ROH《ラ・ボエーム》のように、クライマックスシーンが舞台右端でばかり繰り広げられるような演出では避けたい席ですが、今回の《カルメン》なら大丈夫、との、ご一緒させていただいたロンドンの椿姫さんの事前情報もありましたし、実際、お値段の数倍ものお得感のある体験ができたと思います。
我らが新国立劇場にも、4階のZ席以外にもこういう席を用意してあれば、もっともっとオペラ愛好家の裾野が広がると思うんですけどねぇ…。
しかし、こんな豪華キャストをこんなお得な料金で楽しむ稀少なチャンスであったにもかかわらず、私は2幕の途中から居眠り…。ここぞというアリアでは頑張って目を開けていましたが、記憶は途切れ途切れです。
前日にロンドンに着いたばかりでしたから時差ボケもありましたし、昼間はアレンのお腹に密着して興奮しまくっていましたから、疲労のピークだったんでしょう。
ROHの《カルメン》は06年に新演出に差し替えられ、今をときめく変り種テノールのヨナス・カウフマンがドン・ホセを歌ったこともあり、日本でも有名なプロダクションです。疲れていたとはいえ、居眠りだなんて勿体無いことをしたものです。
そんな中、覚えている限りの印象をまとめます。
まず、ガランチャのカルメンですが、歌はとっても巧い。声も良い。容姿については言わずもがな。しかし、彼女なりのカルメンというキャラクター性を確立させるにはまだまだ・・・という感じでした。
カルメンというのはもっと泥臭い、鬱陶しいくらいの女だと思うのですけど、ガランチャはどうも現代的な透明感がありすぎるんです。ヒロインとしての存在感は大したものですが、生真面目な男を破滅に引きずり込む魔力とでも言いますか、ファムファタル的な嫌ったらしさは感じられない。無臭なんですよね。カルメンって、もっと雌の臭いがすると思うんです。
歌はとても巧いので、聴いていてストレスは無いのですが、時差ボケでぼうっとしている私をドラマに無理矢理引きずり込むほどのフックが、いまいち弱かったです。
とはいえ、それはもう、美しいカルメンでした。これからも回数多く歌う役でしょうから、また何年か経って、ガランチャなりの嫌らしさを醸し出せるようになった時のカルメンをもう一度観てみたい。そして「おお~!!」と唸ってみたいと思います。
今回、「来てよかったなぁ~!!」と思えたのは、ロベルト・アラーニャの力が大きかったです。
アラーニャ、初めて生で聴いたのですが、スター歌手と呼ばれるからにはちゃんと根拠があるものだと、当たり前ですが、改めて納得させられました。
と言いつつ、実は『花の歌』では半分くらい眠っていたのですが(←コラーッ!!)、2幕のカルメンとの重唱とか3幕のエスカミーリョとの決闘とか、もちろんラストのカルメンを殺しちゃうシーンでの絶叫とか号泣とかはちゃんと押さえてあります。
これまであまりアラーニャという歌手を知ろうとしていなかった私なんぞが今更言うことでも無いのでしょうけど、ドン・ホセはまさにアラーニャの役だと思いました。いやもう、ほんと、凄かったです。
ダルカンジェロのエスカミーリョは、上記の2人に比べると存在感が薄かったように思います。
エスカミーリョという役には私はかなり口うるさいので、たぶん誰が歌っても100点満点は出せないんですが……。
まぁ、それを差し引いても、ダルカンジェロの歌唱は地味っぽいので、エスカミーリョには合っていないのかもしれません。フィガロのような役であれば、けっこう良かったので。
ドン・ホセを嫉妬に狂わせる一因として、エスカミーリョというキャラがあるわけですから、出番は少なくともそれなりの華と色気と存在感をアピールしなければならないんですよね。難しい役だと思います。
ミカエラはLiping Zhang。中国の方でしょうか。特に難はありませんでしたが、それほど心には残りませんでした。
脇役で最も光っていたのは、フラスキータ役の中村恵理で、ロンドンの椿姫さんをはじめ同行の方々と、「中村さんがミカエラを歌えばいいのに~」なんて、幕間でさんざん話したものでした。
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◇《カルメン》新国立劇場11/25(日)
07年の《カルメン》実演鑑賞レポ。エスカミーリョはA・ヴィノグラドフ。ネタあり。
◇ジョナサン・ミラー演出《コジ・ファン・トゥッテ》/Royal Opera House
エリナ・ガランチャの生鑑賞レポ。07年7月の《コジ・ファン・トゥッテ》@ROH、ドラベッラ役。
◇《フィガロの結婚》@Royal Opera House 7/8(火)
イルデブランド・ダルカンジェロの生鑑賞レポ。08年7月《フィガロの結婚》@ROH、フィガロ役。
◇【デレカント唱法】/歌唱用語 [オモシロ歌唱事典]
往年のバリトン歌手、エルネスト・ブランクのエスカミーリョ試聴ファイルあり。
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CARMEN
Opera Comique in Four Acts
Composer : Georges Bizet
Director : Francesca Zambello
Designer : Tanya McCallin
Conductor : Bertrand de Billy
Carmen : Elina Garanca
Don José : Roberto Alagna
Escamillo : Ildebrando D'Arcangelo
Micaëla : Liping Zhang
Moralès : Changhan Lim
Zuniga : Henry Waddington
Frasquita : Eri Nakamura
Mercédès : Louise Innes
Le Dancaïre : Adrian Clarke
Le Remendado : Vincent Ordonneau
2009-12-26 22:11
nice!(1)
コメント(8)
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これって、エスカミーリョが本物の馬に乗って歌う演出のですよね。
ダルカンジェロって、イタリア人なのになんていうか控えめというか、あまり目立たないですね。南米のどこかでフィリッポ歌ったのに、その後、歌ってないみたいだし...ヴェルディはだめだったのかな....ほんと最近は、モーツァルトとかロッシーニに留まる人が多いような気がします。
私も「花の歌」って寝ちゃいます......
by keyaki (2009-12-27 01:30)
keyakiさん、
今回、エスカミーリョは途中から馬の上で歌うのを止めました。騎乗では動けないし、歌手は恐々、馬にも迷惑ですから、あれは止めて正解です。
しまさん、
私が無理矢理ブリテンよりカルメンに行きましょうよ、とお誘いしたようなものですが、アラーニャのドンホセをあんな近くで観られるんですもの、そりゃ見逃せませんよ。私はなんと6回も観ちゃいましたよ。値段の割には一番人気のあの席が運良くほぼ毎回分買えたので。長旅のお疲れと時差ぼけで辛かったことでしょうが、楽しんで頂けたようで私も嬉しいです。
by ロンドンの椿姫 (2009-12-27 04:37)
ROHには随分とお得な席があるのですね。
確かに新国立劇場もこのような席がもっとあれば愛好者が増えるかもしれません。興味がある人はたくさんいるのですから。
>これからも回数多く歌う役でしょうから・・・そういうことも歌手にとっては大事なんでしょうね。
by kazu (2009-12-27 09:57)
>せっかくの海外オペラ鑑賞ということでスター歌手を選んだ
たとえしまさんの大好きなブリテンと被っていても、このキャストは見逃せませんね!しかも、ストールサークルのステージを横から見るお得な席だなんて、日本からでも飛んで行きたいです(^^)
>ドン・ホセはまさにアラーニャの役
私も唯一のアラーニャ生体験がドン・ホセだったのですが、ミーハー心で見に行ったのに役への解釈の深さに圧倒されて大感動したのを覚えています。彼のドン・ホセを見て「カルメン」というオペラの評価が私の中でかな~り高くなったくらいです。アラーニャのドン・ホセなら何度でも見たいですね♪
by Sardanapalus (2009-12-27 10:15)
keyakiさん>
騎馬のトレアドール
http://www.youtube.com/watch?v=DN1WHBVQrOI
この時もダルカンジェロがエスカミーリョだったんですよね。
確かに、テーブルに飛び乗ってからのほうが歌いやすそうです。
アラーニャの「花の歌」は、盛り上がってきた時にハッと目が覚めました(笑) 居眠りしているのに気付かなかったんです。
アラーニャだから目が覚めたんだと思います。
by しま (2009-12-27 21:32)
椿姫さん>
いや~誘っていただいて本当によかったです。
「ねじの回転」も良いですが、ソプラノとボーイソプラノとテノールだけですから、(バリトンフェチとしては)物足りなかったと思います。
後から「カルメンにすればよかった~」と悔やみたくなかったし(笑)
居眠りしたのは残念ですけど、やはりアラーニャのドン・ホセ、生で聴けたのは幸せです。
こうして「通っぽい」席を体験できたのも椿姫さんのお陰です。本当にありがとうございました。
by しま (2009-12-27 21:37)
kazuさん>
ヨーロッパの劇場の優れているのは、こういう部分ですね。
当日券も充実しているし、リターンチケット制度もあるので、予定がわからなくてもとりあえずチケットを確保しやすい。
新国も歴史を重ねれば、少しは発展してくれるのでしょうか。それ以前に、歴史を作っていくことのほうがとりあえずの目標なんでしょうが。
by しま (2009-12-27 21:49)
Sardanapalusさん>
サルダナさんは、この辺のお席は何度も活用されていますよね。
私は初めてでしたが、病み付きになりそうです。
ここならアレンの顔ももっとしっかり見えたのに~。次回はこういう席も計画に組み込みたいです。
>彼のドン・ホセを見て「カルメン」というオペラの評価が私の中でかな~り高くなった
そういうことってありますよね。
私も、CDですが、エルネスト・ブランクのエスカミーリョを聴いてから、カルメンの評価が変わりました。
そのCDのドン・ホセはゲッダでして・・・ゲッダもいいんですけど、なんか歌唱がニヤけてるんで、アラーニャとブランクを共演させたらどんなんだろう?なんて無謀な想像してます(笑)
by しま (2009-12-27 21:55)