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《ジークフリート》@新国立劇場2/11 -- ワーグナー実演デビュー [オペラ実演レポ]

sik1.jpg あっという間に1ヶ月が経ってしまいましたが、急ぎ記録しておきますと、実はついにワーグナー実演デビューを果たしたのです。

 演目は《ジークフリート》。
 新国立劇場にて。
 2/11(木)、初日でした。

 なんちゃってヴェルディアンにして、「ワーグナーは(長くて集中力が続かないから)苦手です!!」と言い続け、いくつもの公演やイヴェントはことごとくスルー。CDやDVDはブランク先生やアレンのものだけをコレクション目的で渋々購入。

 こんな私がなぜ、一度も音楽を聴いたことがなくストーリーも全く知らない《ジークフリート》を観に行く気になったのかと言えば、まぁいちばんの理由は、行けなくなった6月の《マイスタージンガー》@シンシナティの代償行動なんですけれども、mixiで超超良席超超お得な価格でゲットできたことが直接のきっかけ。

ワーグナーの楽劇で私が全曲制覇したのは《ローエングリン》と《ニュルンベルクのマイスタージンガー》の2作品だけです。こちらは1話完結なのでまだ気が楽ですが、それでも大雑把な楽譜を頭にインプットするのには時間と根気が要りました。

 一方、《ジークフリート》は「ニーベルングの指環」という一大叙事詩の一部分。序夜《ラインの黄金》・第1夜《ワルキューレ》・第2夜《ジークフリート》・第3夜《神々の黄昏》と、通しで演奏するなら4日間をかけるというとんでもない作品です。

 いわゆる「貴種流離譚」「ハイ・ファンタジー」で、秋葉ちっくなオタク臭がプンプンしますし、それも私がワーグナーを敬遠していた要素の一つ。もちろんファンタジーそれ自体は好きなのですが、文学や映画の領域だけで生息してもらいたいという変な思い込みもありました。

 なので、「指環」のストーリーを事前に勉強することもせず、音楽を予習することも全くなし。ぶっつけ本番で臨みました。
 昔は知らない作品をいきなり生鑑賞するのはちょっと怖かったのですが、昨年の《ムツェンスク郡のマクベス夫人》あたりから、このスリリングな鑑賞スタイルが逆に気に入ってしまいました。
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sik2011.jpg 感想に移る前に、どれっくらい良席だったか、ちょっと自慢しちゃいます。
 1階S席の前から6列目。
 左の写真は、座席からの舞台の見た目ですが、舞台上に赤い金床が置いてあるのがわかりますか? あの金床がおそらく舞台のど真ん中です。

 私は視力が悪いので、新国立劇場でもできるだけ舞台に近い座席を好みますし、段取りが悪いこともあってチケットを押さえるのがいつもギリギリになってしまうので、結果的に1階S席になることも少なくありません。

 新国でのこれまでの最良席は、08年11月の《リゴレット》でしたが(ちなみに、最前列=良席ではない)、さらに舞台に近づきましたし、《リゴレット》の時は正規の値段で買いましたのでお得感は雲泥の差でした。

 2枚セットで譲っていただいたので、お仲間のstraycatさんをお誘いしました。
 着物仲間でもあるのですが、二人ともちょうど忙しい最中でしたし、長丁場となるワーグナーで着物を着る自信もなく、結局洋装で。ちょっと残念でしたが、次回お会いできる時には着物で集まりたいものです。

 さて、《ジークフリート》の感想です。

 sik2.jpg 予習なしの「第2日」ですので、「話についていけるか?」ということが若干心配だったのですが、大丈夫でした。

 例えるなら、映画「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」をシリーズの途中から鑑賞するのと似ています。
 1幕では登場人物2人の命を懸けた問答の中に、きちんと全体のストーリーの背景を説明を織り交ぜたりして、私のような初心者にも「指環」の世界観が伝わるよう、台本も工夫されているようです。

 もちろん、「指環」全体の大きなストーリーの入れ子として、《ジークフリート》も(それなりに)独立したストーリーがあります。

 ただやっぱり、この《ジークフリート》を観ただけでは、「結局、何の話なの?」と、不完全燃焼で終わってしまいます。決着が着くわけではありませんので、3月に上演される《神々の黄昏》のチケットをまたもや確保するハメになりました。
 また、「こんなに大切に(?)されているジークフリートって何なのさ?」という疑問も残りますので、機会があったら《ラインの黄金》や《ワルキューレ》も鑑賞する必要があると思います。

 なるほど、こうやってワーグナー地獄にハマっていくのね。ずるいなぁ…と思いました(笑)

 そして、同じく“予習なし”で体験した《ジークフリート》の楽曲。こちらは、まったくと言っていいほど耳に残っていません!

 過去に予習なしで臨んだ演目に《マクベス夫人》や《ヴォツェック》がありますが、一度聴いただけでは音楽全体を把握するのは無理だとしても、必ず数ヶ所程度は印象的なフレーズがあり、それが耳に残ったものです。耳に残れば「もう一度聴いてみたい」と思いますから、時間を空けずにCDを買いに行く。そして何度か聴き込んでいくうちに、自分なりの鑑賞スタイルが出来上がってくるものです。

 そういう経験をしていたので、《ジークフリート》でもそうだと思ったのですが…。う~ん、誤算でした。

 というか、ワルキューレであってもローエングリンであってもマイスタージンガーであっても、全曲制覇してなくても部分的にものすごく有名な音楽がありますから、「お、ここは知ってるゾ!」となるシーンがありました。ジークフリートにもきっとそんな部分があると思っていたんですが…無かった…というか、気付かなかっただけなのかもしれません。

 思うに、ワーグナーの音楽はたいへん洗練されており、耳当たりは心地良すぎると言っても良いほどです。おかしな癖もありませんし、メロディが芝居に完全に溶け込んでいますので、よほど注意ぶかく聴いていないと私の場合は耳を素通りしてしまうようです。そこが「ワーグナーは苦手」と感じる原因なのかもしれません。

sik5.jpg とはいえ、公演じたいはとてもとても楽しむことができました。

 キース・ウォーナーの“読み替え演出”が新鮮なこの“トーキョー・リング”は、2001~2004年にかけて新国立劇場で初演されたプロダクションの再演(そういえば、この通称は聞いたことがあるような)。およそ5年ぶりということですが、初めて見た私にとっても(VHSビデオの小道具を除けば)全く古さを感じませんでした。当時はさぞ斬新だったことでしょう。

 舞台美術もユニーク、ゴチャゴチャとした(良い意味での)チープさが絵本のようで、「英雄が大蛇を退治してお姫様を手に入れる」というメルヘンチックなこの演目にぴったりだったと思います。

 3幕の、ブリュンヒルデが眠るベッドのある部屋など、空間のねじれた構図がそれこそダリの絵のようで、その荘厳さにため息が出ました。

 反面、演出はまるでコミックのように面白い。
 ジークフリート(クリスティアン・フランツは、スーパーマンのロゴ入りトレーナーにサロペットジーンズ。英雄というより、ほとんどグレかかった悪ガキで、育ての親ミーメ(ヴォルフガング・シュミット)に対してDVさながらの反抗ぶりです。

 大蛇退治のためにジークフリートがノートゥングの剣を鍛え直すのは、鍛冶ではなく“料理”。なんと、電子レンジでチンっ!
(そうくると思った~♪と、幕間でstraycatさんと盛り上がりました)

sik3.jpg ジークフリートに助言をする森の小鳥(安井陽子)は着ぐるみ。宙吊りになって歌ったりして、なかなか大変そうでしたが、後で知ったところでは、小鳥が《ジークフリート》上演史上初めて舞台上に登場したのがこの“トーキョーリング”なのだそうです。

 着ぐるみだと愛嬌ありすぎて、ちょっとおマヌケっぽくも見える小鳥さんですが、ジークフリートがブリュンヒルデの眠る岩山へ向かって小鳥の後を追っていくと、さっと着ぐるみを脱ぎ、美しい裸体をさらして消えていくシーンがあり、とても印象的でした。

 何もかもが初めてづくしの《ジークフリート》鑑賞。
 しかし、歌手陣はお馴染みかつお気に入りの面々が出てくれました。

 まずは、大好きなキャラクター・テノール、ヴォルフガング・シュミットおじさん(ミーメ)。
 わがブログでも、最近ではバイエルン州立歌劇場《ヴォツェック》でもちょっと話題にしていました。こんなに早くこの人に再会できるなんて、とっても嬉しかったですね。

 強大な力を持つ指環を手に入れる目的のためにジークフリートを利用し、毒殺までくわだてる悪役ですが、愛嬌たっぷりでどこか憎めないニーベルング族。シュミットにぴったりの役だと思います。
 カーテンコールでもひときわ大きな拍手を浴びていました。新国でも外せない人気者です。

sik4.jpg 主人公ジークフリートを歌ったクリスティアン・フランツは初めて聴く人でした。03年の《ジークフリート》、04年の《神々の黄昏》でも同役で来日しています(どちらもダブル・キャスト)。

 新国のサイトの紹介では、世界で最も活躍しているヘルデン・テノールなのだそうです。私はヘルデン・テノールの良し悪しを判断する耳がまだできていないのですが、とにかく1幕から出ずっぱり歌いっぱなしの大役なのに、全く息切れする様子も見せず、最後まで大声量を保って歌い通したのがすごいと思いました。

 スーパーマンのトレーナーも似合いましたが、伝統的な衣装と演出で歌っているところも見てみたいです。

 そして、ブリュンヒルデのイレーネ・テオリンも、08年の《トゥーランドット》で惚れ込んで以来の2度目の再会。
 3幕のいちばん最後に登場する役なので、出演者の中で最も元気。こちらも超人離れした大声量を聞かせてくれました。

 テオリンは身体が大きくて、スタイルも良く、しかも北欧美女ですから、容姿も戦乙女ブリュンヒルデにぴったりです。この強そうな女性が、ヨレヨレのさすらい人ヴォータンの娘という設定も、なんだか萌えでございますこと。

 さすらい人は、ユッカ・ラジライネン。あまり力強さは感じられない反面、インテリ風なヴォータンです。

 以前、ジョン・トムリンソンがヴォータンを歌った時の迫力を噂に聞いて、そこからヴォータンというキャラクターのイメージを膨らませていたので、最初に登場した時には「え、こんなナヨナヨが・・・(*゚Д゚)?」と拍子抜けしてしまいましたが、いやいや、トムリンソンのヴォータン像が間違っていたに違いない。うん、きっとそうだ。

 初めてのワーグナー生鑑賞。
 これが気に入るか否かで今後のオペラ人生の幅が極端に狭まる可能性もありましたが・・・。お陰さまで、これからはワーグナーも選択肢の一つに加えることができそうです。

 しかし、次回は《神々の黄昏》。指環4部作の中で最も上演時間が長いそうです(4時間半)。死ぬかも。


 ■おまけ■
 “トーキョー・リング”
 序夜《ラインの黄金》のダイジェストムービー
 第1日《ワルキューレ》のダイジェストムービー



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2009/2010 Season Opera
Richard Wagner:"Der Ring des Nibelungen" Zweiter Tag Siegfried
リヒャルト・ワーグナー/全3幕
【ドイツ語上演/字幕付】
【作曲/台本】リヒャルト・ワーグナー
【指 揮】ダン・エッティンガー

<初演スタッフ>
 【演 出】キース・ウォーナー
 【装置・衣裳】デヴィッド・フィールディング
 【照 明】ヴォルフガング・ゲッベル
 【振 付】クレア・グラスキン

<キャスト>

【ジークフリート】クリスティアン・フランツ
【ミーメ】ヴォルフガング・シュミット
【さすらい人】ユッカ・ラジライネン
【アルベリヒ】ユルゲン・リン
【ファフナー】妻屋秀和
【エルダ】シモーネ・シュレーダー
【ブリュンヒルデ】イレーネ・テオリン
【森の小鳥】安井陽子

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

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keyaki

初演も見てますので、2回目なんですが、けっこう忘れていて、漫画チックな演出を楽しみました。ワグネリアンじゃない者には、こういう楽しいびっくりおもちゃ箱のような演出のほうが分かりやすいし、たいくつしなくていいと思います。
下心があるにせよ、前回より、親を必死でやっているミーメに同情しちゃいましたが、立派なヴォルフガング・シュミットだったからでしょうね。

>小鳥が《ジークフリート》上演史上初めて舞台上に登場したのがこの“トーキョーリング”なのだそうです。
そうなんですか....知りませんでした。これは自慢できますね。

私は8列目で、舞台の奥もよく見えてよかったです。こういう演出では、オペラグラスを使っているとわけがわからなくなりますから、近くて全体が良く見える席がいいですね。

TBしますので、よろしくお願いします。
by keyaki (2010-03-08 16:51) 

しま

keyakiさん>
TB承認させていただきました。

>びっくりおもちゃ箱のような演出
はい。ご一緒したstraycatさんとも、「こういう演出のほうが(初心者の私達にとっては)押し付けがましくなくていいよね~」と話していました。
単純明快なヴェルディとは違って、ワーグナーは歌詞も哲学的で一朝一夕には理解できそうもありません;;;

>小鳥が《ジークフリート》上演史上初めて舞台上に登場した
keyakiさんに突っ込まれるとドキっとしてしまいますが(笑)、mixi内のコミュニティでどなたかがそのように仰っていたのです。
私も裏をとったわけではないので、違っていたらすみませんです。

keyakiさんも良い席でご覧になったんですね。
確かに、オペラグラスではちょっと辛そうです。
私のような門外漢がこんな良席に座っていいものか…と、恐縮しつつ、楽しませていただきました。

by しま (2010-03-08 22:01) 

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