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兄ぃニ(畏れ多くて名前を出せない)のルーナ伯爵 -- イル・トロヴァトーレ '57年と'60年盤 [オペラ録音・映像鑑賞記]

※4/2 画像をいくつか差し替えました。
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《イル・トロヴァトーレ》の1文あらすじ

 ジプシーの老婆の復讐により、生き別れた兄弟が1人の女をめぐって争い、肉親と知らずに殺し合う愛憎悲劇。


 ある意味壮絶だった《オランダ人》の予習の反動と言うべきか。ここンところのCD鑑賞はヴェルディ三昧。

 主に大先生の空前のヒット作、《イル・トロヴァトーレ》の聴き比べなんぞを楽しんでおったわけです。

 私はたぶん、ヴェルディの中ではこのトロヴァトーレがいちばん好きと思います。

 なぜ「たぶん」かというと、ヴェルディ作品を全て聴いているわけではないからなんですが(ジョヴァンナ・ダルコとか海賊とか)、マイナーなやつ全て聴いても順位はひっくり返らんと思いますね。《レニャーノの戦い》とか死んだよ、あたしゃ。

 ヴェルディのオペラは辛気臭いお話が多いけど、そのワリにはスチャラカ♪で笑える音楽で。
 「呪い」だの「復讐」だの「愛」だの「恋」だの本気でやってンのかしら?と、大先生の神経を疑いたくなるのですが。
 その最たるものが《イル・トロヴァトーレ》だと思うわけです。

 そりゃ、アリアも重唱もカッコ良いさ。どの場面のメロディーもめちゃくちゃキャッチーだし。寄木細工みたいに緻密に計算された2幕幕切れの重唱とか、「神」だと思うさ。

 でも結局、全編がハイテンションな大運動会。歌手たちが自慢の大声と高速歌唱で「オレが!」「アタシが!」と泥試合を繰り広げる、オモシロ演目・お祭り演目として楽しんでいるわけです。
 いや、ま、私はね。

 なので。
 初めてバステ(あ、あぶねぇ…)兄ぃニがルーナ伯爵を歌っているトロヴァトーレの某録音を聴いた時、なんかこう……ちぇっと舌打ちしたくなるような、拗ね拗ねモードに入ってしまったのです。

 その時の心の声を再現すると……
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ちょっと。
そこのおにいさん。



あなた、



カッコ良すぎ
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ですよ。



ルーナ伯爵っちゅーのは、





こーゆーのとか、
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(※グロ様のルーナです)



こーゆーのとか、
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(※グロ様のルーナです)


いかにも「非モテ系」ってな感じのほうがいいンでないの?
主役じゃないんだからさ。



フラれ役がお仕事なバリトンのくせに、



二枚目っぽい歌唱をするなんて、
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反則よ、反則!



だいたいね…

たかがヴェルディごときを、
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モデル立ち
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↑動画で確認してネ


歌うなんて…!!
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↑動画で確認してネ




え、なに?

演目が違う?




ル、ルーナで出せばいいんでしょ。ルーナで出せば。











ほらっ、トーキョーでもやってるわよ!(右足に体重かけて)
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↑動画で確認してネ






 ……と……。
 つ、つまり……ご立派なお声とカッコ良すぎる歌唱に圧倒されてしまって、なんかこう、テンションだなんだとお祭り騒ぎでヴェルディを聴いている自分を真っ向から否定されたような気がしたのです。

 あーこの人のせいで、トロヴァトーレで大ウケするたびに何か罪悪感のようなものを感じちゃうじゃない。
 私からヴェルディを聴く楽しみを奪った兄ぃ二のばかーー!・゚・(つД`)・゚・

 ……と、これが長きにわたる敬遠の始まり。

 ま、兄ぃ二の歌唱にショックを受けたからこそ、ピーター・グロソップという大本命のヴェルディ・バリトンに出会えたと思っているのですが。
(そこ、 "あんなゴリが兄ぃ二より上?" とか、言わない!)

 非情に個人的な好みで申し訳ないのですが、ヴェルディってね、上手く歌っちゃいけないの。
 いえ、上手いに越したことはないし、実際本当に上手い人がやらないと目も当てられない大惨事を招くので、一定レベル以上のテクニックを持つ歌手を揃えることは言わずもがな、なんですが。

 その「上手い」と言われる「先生方」でさえ苦しめられるヴェルディの難曲。完璧に歌うのならじっくり取り組みたいところだけど、テンポよくハイテンションに演奏しないと曲の魅力は失われるし。客の期待もマックスなわけで。

 そういう大プレッシャーの影響をモロに受けて、先生方の歌唱がグダグダになるのがオモシロい。

 声が裏返ったり、モタついたり、音程なんてどうでもよくなっちゃったり、大声合戦に気をとられて叙情性がゼロになったり。

 そんなドタバタの中、フィギュアスケートの4回転ジャンプのように、体操ならD難度とかスーパーEみたいな技を成功させてくださったりなんかしたら、それこそ拍手喝采、わっしょいわっしょいのお祭り騒ぎとなるわけで。

 「ワタシ、生きてる!」っていう高揚感を味わえる。
 それが私にとってのヴェルディ。

 なのに兄ぃ二のトロヴァトーレときたら。
 音程はめちゃくちゃ合ってるし(常に#で歌ってほしいのに)、声は王様みたいに立派だし(バリトンの旋律は滑稽なものが多いのに)、小技を駆使した「感情表現」とやらでテノール(マリ夫)を押しのけて二枚目ヅラしちゃってるし(バリトンのカッコ悪い役回りが好きなのに)、どの場面もモタモタしないで危なげなく歌いこなしちゃってるし(突っ込みドコロが欲しいのに)、まぁ「きみが微笑み」は微妙にグダっとしてるけど(笑)、なんか「我輩は完璧である」なんて言ってるみたいで、つまんないーと思っていた。
 …ところが、ですね。

 こないだ兄ぃ二のスカルピアを聴いてシュテキー(人´∀`).☆.。.:*・゚ってなった時に気付いたんですが、この時の《トスカ》、ライブなんですよね。ノリノリなんです、兄ぃ二。

torova.jpg そして手持ちの《トロヴァトーレ》は1957年のマリオ・デル・モナコとの共演のもの。
 これ(→)ですね。
 オペラ映画のサウンドトラック盤。
 スタジオ録音です。

 ああ、そりゃーカッコ良すぎなわけです。
 映画やもん。

 ジャケ写をクリックするとYouTubeに飛びますが、歌よし姿よしの美男2人と美女1人を据えたやつでしょ。(マリ夫も黙ってりゃハンサムですよね?)
 どうりで、妙に落ち着きはらったカッコつけ歌唱だと思った。

trova2.jpg もしかしたら兄ぃ二もライブでこそ輝く人かも?
 そーだ、ヴェルディ歌手ならライブで評価しなくっちゃ。
 と、改めて手に入れてきたのが(←)こちら。

 1960年、Metでのライブ。
 カルロ・ベルゴンツィのマンリーコにジュリエッタ・シミオナートのアズチェーナ。レオノーラはアントニエッタ・ステッラ

 コレッリのもありますけど、あんまり好きじゃないのでして。

 で、ライブでの兄ぃ二ですが、私の読みは当たりました。
 ヴェルディ歌手と呼ばれるからには、ちゃんとこの人にもあるんですね、ヴェルディ・スイッチというものが。

 最初の登場のあたりではまだ「正気」を保っているようですが、続くマンリーコ、レオノーラとの3重唱で、早くも"カチッ"とスイッチON!

 お約束の#歌唱はもちろんのこと、指揮者を煽る前のめり歌唱、大声合戦にもちゃんとエントリー。 
 3幕アズチェーナ捕囚の場では超高速カツゼツ歌唱。
 それでも美声も技巧も崩れないところが兄ぃ二のすごいところ。まぁ「きみが微笑み」はやっぱり微妙にグダっとしますが(笑) あくまでも"当社比"ですけどね。

 ああよかった。兄ぃ二もちゃんと「ライブの人」「テンションの人」「ヴェルディっ子」です。
 そういや"うんちか"のカバレッタもなかなかのハイテンションで高感度高し。どうしても"モデル立ち"に目が行ってしまうので聞き逃しがちになるんですけど。

 まぁ私の好みから言えば、まだちょっとキレ方が足りない。キレてメチャクチャになった先に見えてくるものが欲しいと思うのですけど、まぁルーナですからネ。旋律カッコいいんで、あんまり音を外してもらっても困るんで。
 結局、カッコ良すぎる兄ぃ二にはカッコ良く歌っていただきたいんで(←気に入ったら手のひらを返します)

 ところで、兄ぃ二の《トロヴァトーレ》には「明らかに間違えてるでしょう!?」というポイントがけっこうあって、そこにツッコむというお楽しみもあります。

 '57年の《トロヴァトーレ》では普通に音程間違えてるし。
 '60年盤では「Va~! Va~! Va~!」の露骨な入り遅れとか、服毒したレオノーラが「あっでぃ~~~ぉ~~~~…」と悲劇的にやってる後ろで盛大にr(ry






ま、いろんな意味でカッコ良すぎな兄ぃ二ですが、

素では普通に、
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ニヤけたイタリアのオッサンであったと・・

想像するとほほえましいです。


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関連記事リンク

グロソップのルーナ伯爵 in 《イル・トロヴァトーレ》
ピーター・グロソップのルーナ伯爵@YouTube '64年ROHライブ

エットレ・バスティアニーニの《外套》 -- その歌唱とストーリーについて
(↑関連性はありませんが、こー見えてマジメなファンであることのアピールです)

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コメント 10

Basilio

べたですが兄さんの“君が微笑み”は稀有だと思います♪
カプ様とかメリルとかももちろん素敵だとは思うんですが、この人のこの歌から出る色気はこころもことばもおよばれね笑。

私はセラフィン盤でよく聴きましたが、しまさん的にはこれはお行儀が良すぎるかも。このライヴは斑猫さんから教えてもらって、セラフィン盤で唯一気に食わなかったコッソットがシミオナートになっている点も含めて、この曲のベストだと思います(その代りフェランドがヴィンコじゃないのが残念ですが…トッツィとかザッカリアでも良かったけど)。

高速歌唱といえばこの録音の“見よ恐ろしい炎が”の後半と4幕の伯爵とレオノーラの2重唱がえらいハイスピードですよねww
by Basilio (2012-03-23 12:43) 

Sardanapalus

「トロバトーレ」と「運命の力」は歌舞伎の時代物に通じる「そんなばかな」な展開が楽しいです(違)あのストーリー展開とミスマッチなヴェルディ節も聞きどころですよね。

私も兄さん(と呼べばいいのかしら?^_^;)はかっちりいつでもイケメン歌唱、というイメージなのですが、ライブ盤ならハイテンションなのですね!?今度私もご紹介の60年METライブ盤を聞いてみようと思います。

>あなた、
>カッコ良すぎ
特にスチール写真はキメキメですね!一番上の写真はジョヴァンニですか?一番下のふつーのイタリア人の写真とイメージが違い過ぎてつい笑ってしまいます。
by Sardanapalus (2012-03-23 22:05) 

しま

■Basilioさん
>“君が微笑み”は稀有
私もそう思います。この人ほど男前な歌唱ができる人は今後もなかなか出てこないでしょうね。
この人のカッコ良すぎるルーナが故に、グロ様のルーナが「ちょっと違う」と言われちゃう (え? 誰と比べても"違う"?)

セラフィン盤は妹が持っておりまして、「これは"相撲"じゃない」と申しております(笑)

>フェランドがヴィンコ
あ、また気が合いましたね♪ 私もフェランドはヴィンコが好き~。

>えらいハイスピード
まったくもって理想的なスピードでw 速ければ速いほど笑えますものね!
by しま (2012-03-24 02:38) 

しま

■サルダナさん
「うんちか」の(特にテノールVSバリトンの)おマヌケさときたらトロヴァトーレの比じゃなく笑えるので、これもそのうち語りたいです。

>兄さん
おっと、それだと50代以前のアレンのことになってしまいます…って、そんなことどーでもいいんですが、まぁ名前を伏せていただければ何でもOKでさぁ。

>ライブ盤ならハイテンション
はい。ただ、あくまでも"当社比"ですので。基本はイケメンです。
そんでもテノールと大声を張り合ったり、息の長さをアピールしたりと、ムキになってる感があって(笑)、なにげに「漢(オトコ)」を感じるんですよ。

>一番上の写真
一応、ルーナらしいんですけどねぇ・・昔の写真はわからんです。
ま、苦虫を噛み潰してるようなキメ顔よりも、あにーには笑顔がいちばんですね。
by しま (2012-03-24 03:06) 

斑猫

えーと、「名前を言ってはいけないあの人」の信者たる私としましては、どこから突っ込んで良いのかわからないのですが・・

無難なところから
>一番上の写真
は、ロドリーゴです。メトロポリタンのものです。
メトでの同役デビュー時ですから、1955年ではないでしょうか。
この時代はプロダクションの概念があいまいで、衣装は自前で持参が標準。だから、東京公演のルーナは、前年のスカラのルーナと同じ衣装ですよね。

と、ファッション談義はさておき、

モデル立ち、ね。
かのお方は、盛り上がってくると半歩前に踏み出していくのが癖だったようなんで、片足に重心を置いているのはその準備体勢かと思われます。かつ、脚線美アピールもあったのかもしれませんがねw


ライブならではの
盛り上がりもミスも楽しい!
君の微笑み、なんて、あれだけ何度も歌ってるでしょうに、どうして入りを間違えたりしちゃうんでしょうね。
最後も、la tempesta del mio cor! と la tempesta del cor!との2ヴァージョンがあって、これは楽譜に2ヴァージョンあるのか、単なる勢いの間違いなのか、不精なので調べがついておりませんが、その他にも微妙なミスが散見され、やっぱりライブでは、なんかに憑かれちゃうのかなぁ、と身びいきなので、それもまた味わい深く・・

さあ、どんどんいじってくださいませ。
期待してますわよーん。
by 斑猫 (2012-03-24 11:08) 

galahad

ヴェルディ三大荒唐無稽オペラ、『トロヴァトーレ』、『運命の力』(うんちかという略称も爆笑)、『エルナーニ』。 カッコよく歌ってればそれはそれでおもしろさが際立つということで。
ライブでは笑ってられないのがいけませんけどね。
なんで普通に歌っていられるんだろうと思ったけど、あれは正気じゃないのか…。
by galahad (2012-03-24 16:56) 

Basilio

斑猫さんから愛とネタが溢れ出ていて恐ろしいww
“君が~~”の最後のとこ、それこそ高名なセラフィン盤でもmioが抜けてますよね?ちょっと気にはなってました笑

ヴィンコって結構こういうくらいの役でいい味出してますよね♪
名脇役の感があって、結構入っているとチェックしてしまいまする。
by Basilio (2012-03-24 22:57) 

しま

■斑猫さん
ワタクシのイジりをここまで肯定していただいたのは初めてでして・・嬉しいやら戸惑うやら・・ヽ(´ー`)ノ
こんなことなら、もっとハッチャケとけばよかった(笑)

写真の誤りの訂正、ありがとうございます。
後ほどルーナに差し替えておきますネ(ネタにおいては完璧主義)。

>衣装は自前で持参
……(*゚Д゚)
え…。ってことは、あの衣装もこの衣装も「着せられた」んじゃなくて、あにーにの趣味…!?

そういやグロ様の自伝でも、リゴレットの頭巾に自分でベルを縫いつけたとかいうエピソードがありました。グロ様も自前だったのかな?

>盛り上がってくると半歩前に
それこそヴェルディ・スイッチというものでしょう(違) 半歩踏み出すごとにカチッ、カチッと。

>脚線美アピール
タイツですしねw

>2ヴァージョン
およそ4年ぶりにセラフィン盤を聴いてみました(←どんだけ敬遠してるんだか)
確かに「mio」がないですねぇww
そういや、トスカでも明らかに耳慣れたセリフとは違う部分がありましたが・・あれももしや・・?
by しま (2012-03-25 23:18) 

しま

■galahadさん
エルナーニは曲そのものがバカバカしいですものね(笑)

>カッコよく歌ってればそれはそれでおもしろさが際立つ
そう。私がこのブログでやっているのは、「珍プレー・好プレー集」なんです。

>あれは正気じゃないのか…
スイッチが入った状態です(`・ω・´) キッパリ
つか、「きみが微笑み」とか、私がバリトンだったらこっぱずかしくて平常心じゃ歌えないです。

脳みそまでが「筋肉」ならぬ「声帯」でできているグロ様はどや顔で歌ってますけど(笑)

galahadさん、ワグネリアンでいらっしゃるのに、なにげに私のネタ用語を正確に理解してくださるので嬉しい。
実は隠れヴェルディアンですか?(笑)
by しま (2012-03-25 23:41) 

しま

■Basilioさん
>斑猫さんから愛とネタが溢れ出ていて恐ろしいww
そうなんですか(笑) なんだか私も嬉しいです~。
ネタは本来、真の信者の方にこそ語っていただきたいものですから♪

>ヴィンコ
「気が乗らないな~」と思うCDでも、キャストにヴィンコとあると、買ってみるか?って気になってしまいます。
グロ様と一緒に来日した・・ということだけで既に好感度マックスですし(笑)
by しま (2012-03-25 23:57) 

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