夢とロマンの「ある夜のこと」/14人のイァーゴ [オペラ録音・映像鑑賞記]
19世紀生まれのアンティーク歌手たちによる《オテロ》名場面集より。14人のイァーゴ聴き比べ。
“ある夜のことです。宿舎でカッシオと眠っていた折、私は聞いてしまったのです。
彼の唇がゆっくりと動いて、デズデーモナへの禁断の愛を囁くのを…!”
オテロの妻デズデーモナと腹心カッシオの不義を吹き込むイァーゴの語り。
淫らな夢を見るカッシオ(もちろん全くの作り話)を真似て、甘美で官能的な言葉を囁き、オテロの嫉妬心を煽ります。
「酒の歌」では豪快に、「クレド」では悪魔的な歌唱を繰り広げるこの役に与えられた、唯一のお色気っぽい歌唱が聴けるシーン…ということで、妙なハイテンションで聴いてしまう私(笑) イヴをそそのかす蛇のような狡猾なアプローチでも構わないのですが、ここを官能的に歌うからこそ、証拠もないのにオテロの猜疑心が一気に沸点に達するのでは?と思っております。
バリトンのセクシー歌唱を聴きたいだけという、「趣味」の問題かもしれませんが(笑) 我らがアンティーク・バリトンの先生方のお色気度は如何に。
尚、この回には、1887年の《オテロ》初演時にイァーゴを歌ったヴィクトール・モレルが参戦します。
※右上は1995年の映画『オセロー』の1シーン。ローレンス・フィッシュバーンのオセローと、ケネス・ブラナーのイァーゴ。
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※こちらで6人分をまとめて聴けます⇒YouTube
(個別にリンクしたモレルやバッティスティーニの音源は録音年が古く、キーが半音ほど高く上がっており、声の感じも変わってしまっています。ちとカマっぽかったり;;; 本来の声に近いのは、このCDの音源をアップした↑のリンクです。
レコードの回転速度が違うだけでこうも変わるのかと、聞き比べてみると面白いです。
ルッフォの録音も音は悪いですがキーの高さはリストア済のものと同じ。声の響きもほとんど変わっていませんでした。)
【ある夜のこと】
ヴィクトール・モレル (Victor Maurel)フランス/1848 - 1923
1904年の録音/ピアノ伴奏/⇒YouTube(リストア無し)
元祖イァーゴの声が聴けるなんて。これぞ夢とロマンの極み!
でもどうしましょう、お顔がなんだか笑えるんですけど・・
モレル先生、56才での録音のよう。声の衰えは隠せないが、最盛期は輪郭のはっきりとした明るめの美声だったろうと想像できる。
かなりの演技力の持ち主だったとか。“singing actor” と評する文もあり。
歌唱はひたすら美しい。言葉を一つ一つ並べるように、静かに、媚薬のような嘘が忍び寄ってくる。
【ある夜のこと】
エウジェニオ・ジラルドーニ (Eugenio Giraldoni)イタリア/1871 - 1924
1905年の録音/ピアノ伴奏/
元祖スカルピア(大声必須)は、しかし、イァーゴでは耳元で語りかけるかのような歌唱。カッシオの寝言の口真似が子どもみたいに無邪気で、それが逆に恐ろしい。
そしてやっぱり高音の響きがキレイ。クレド以外では端正な歌い方をしていたのかもしれず、一見品行方正な人がまことしやかに囁くから、オテロも信じてしまうのだろうと思わされる。
【ある夜のこと】
マリオ・サンマルコ (Mario Sammarco)イタリア/1867 - 1930
1907/08/オーケストラ伴奏/
死にそうなビブラートですけど、ダイジョブですか?
もしくは、
「そんなにメソメソしなくてもいいんじゃない?」。
カッシオの寝言のマネは亡霊そのもの。
いや、キャラとしてはオモシロいです。キャラとしては。
【ある夜のこと】
マッティア・バッティスティーニ (Mattia Battistini)イタリア/1856 - 1928
1912年の録音/オーケストラ伴奏/⇒YouTube(リストア無し)
どうしましょう。お顔がオモシロすぎるんですけど・・。
56才の録音のようですが、年齢を感じさせない声が素敵。頭声がキレイに響いています。
しかし、いかんせん、アクが足りない。官能的なのはいいんだども、ここではオテロの疑惑のさざ波を確信の大波へ押し上げる勢いのようなものも欲しいのですよ。
と、ウチのライオン・キングがよく比較され(貶され)た人だから、飼い主としては辛口になるw
【ある夜のこと】
ティッタ・ルッフォ (Titta Ruffo)イタリア/1877 - 1953
1920年の録音/オーケストラ伴奏/⇒YouTube
大声が売りのルッフォだけど、この人がすごいのは弱音(なんとpが6つも!)でも失速しないで「歌って」いるところ。メッツァヴォーチェは大声でわめくよりも体力が要るのですよ、フフフ。
(悪く言えば)ぼやけた声も、オテロを惑わすには効果的。官能的…とはちょっと違うけど、自分の虚言に陶酔するかのような表現も良し。
やや演技不足の感はあれど、ルッフォの声の魅力はそんな小手先の技で誤魔化さr(ry
【ある夜のこと】
リッカルド・ストラッチャーリ (Riccardo Stracciari)イタリア/1875 - 1955
1925年の録音/オーケストラ伴奏/
素敵すぎてイヤ〜ンなはずのストラッチャーリ様が、嫌らしい小悪党に!(*゚Д゚)
「どぅぇずどぅえ〜むぉな〜(デズデーモナ)」とねっちょり囁いたり、いろいろ小技を使っています。
ニヤニヤ笑いが目に浮かぶ。
美声に加えて芸達者とは。さすが、ボリス・クリストフの師匠だっただけのことはある。
“ある夜のことです。宿舎でカッシオと眠っていた折、私は聞いてしまったのです。
彼の唇がゆっくりと動いて、デズデーモナへの禁断の愛を囁くのを…!”
オテロの妻デズデーモナと腹心カッシオの不義を吹き込むイァーゴの語り。
淫らな夢を見るカッシオ(もちろん全くの作り話)を真似て、甘美で官能的な言葉を囁き、オテロの嫉妬心を煽ります。
「酒の歌」では豪快に、「クレド」では悪魔的な歌唱を繰り広げるこの役に与えられた、唯一のお色気っぽい歌唱が聴けるシーン…ということで、妙なハイテンションで聴いてしまう私(笑) イヴをそそのかす蛇のような狡猾なアプローチでも構わないのですが、ここを官能的に歌うからこそ、証拠もないのにオテロの猜疑心が一気に沸点に達するのでは?と思っております。
バリトンのセクシー歌唱を聴きたいだけという、「趣味」の問題かもしれませんが(笑) 我らがアンティーク・バリトンの先生方のお色気度は如何に。
尚、この回には、1887年の《オテロ》初演時にイァーゴを歌ったヴィクトール・モレルが参戦します。
※右上は1995年の映画『オセロー』の1シーン。ローレンス・フィッシュバーンのオセローと、ケネス・ブラナーのイァーゴ。
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※こちらで6人分をまとめて聴けます⇒YouTube
(個別にリンクしたモレルやバッティスティーニの音源は録音年が古く、キーが半音ほど高く上がっており、声の感じも変わってしまっています。ちとカマっぽかったり;;; 本来の声に近いのは、このCDの音源をアップした↑のリンクです。
レコードの回転速度が違うだけでこうも変わるのかと、聞き比べてみると面白いです。
ルッフォの録音も音は悪いですがキーの高さはリストア済のものと同じ。声の響きもほとんど変わっていませんでした。)
【ある夜のこと】
ヴィクトール・モレル (Victor Maurel)フランス/1848 - 1923
1904年の録音/ピアノ伴奏/⇒YouTube(リストア無し)
元祖イァーゴの声が聴けるなんて。これぞ夢とロマンの極み!
でもどうしましょう、お顔がなんだか笑えるんですけど・・
モレル先生、56才での録音のよう。声の衰えは隠せないが、最盛期は輪郭のはっきりとした明るめの美声だったろうと想像できる。
かなりの演技力の持ち主だったとか。“singing actor” と評する文もあり。
歌唱はひたすら美しい。言葉を一つ一つ並べるように、静かに、媚薬のような嘘が忍び寄ってくる。
【ある夜のこと】
エウジェニオ・ジラルドーニ (Eugenio Giraldoni)イタリア/1871 - 1924
1905年の録音/ピアノ伴奏/
元祖スカルピア(大声必須)は、しかし、イァーゴでは耳元で語りかけるかのような歌唱。カッシオの寝言の口真似が子どもみたいに無邪気で、それが逆に恐ろしい。
そしてやっぱり高音の響きがキレイ。クレド以外では端正な歌い方をしていたのかもしれず、一見品行方正な人がまことしやかに囁くから、オテロも信じてしまうのだろうと思わされる。
【ある夜のこと】
マリオ・サンマルコ (Mario Sammarco)イタリア/1867 - 1930
1907/08/オーケストラ伴奏/
死にそうなビブラートですけど、ダイジョブですか?
もしくは、
「そんなにメソメソしなくてもいいんじゃない?」。
カッシオの寝言のマネは亡霊そのもの。
いや、キャラとしてはオモシロいです。キャラとしては。
【ある夜のこと】
マッティア・バッティスティーニ (Mattia Battistini)イタリア/1856 - 1928
1912年の録音/オーケストラ伴奏/⇒YouTube(リストア無し)
どうしましょう。お顔がオモシロすぎるんですけど・・。
56才の録音のようですが、年齢を感じさせない声が素敵。頭声がキレイに響いています。
しかし、いかんせん、アクが足りない。官能的なのはいいんだども、ここではオテロの疑惑のさざ波を確信の大波へ押し上げる勢いのようなものも欲しいのですよ。
と、ウチのライオン・キングがよく比較され(貶され)た人だから、飼い主としては辛口になるw
【ある夜のこと】
ティッタ・ルッフォ (Titta Ruffo)イタリア/1877 - 1953
1920年の録音/オーケストラ伴奏/⇒YouTube
大声が売りのルッフォだけど、この人がすごいのは弱音(なんとpが6つも!)でも失速しないで「歌って」いるところ。メッツァヴォーチェは大声でわめくよりも体力が要るのですよ、フフフ。
(悪く言えば)ぼやけた声も、オテロを惑わすには効果的。官能的…とはちょっと違うけど、自分の虚言に陶酔するかのような表現も良し。
やや演技不足の感はあれど、ルッフォの声の魅力はそんな小手先の技で誤魔化さr(ry
【ある夜のこと】
リッカルド・ストラッチャーリ (Riccardo Stracciari)イタリア/1875 - 1955
1925年の録音/オーケストラ伴奏/
素敵すぎてイヤ〜ンなはずのストラッチャーリ様が、嫌らしい小悪党に!(*゚Д゚)
「どぅぇずどぅえ〜むぉな〜(デズデーモナ)」とねっちょり囁いたり、いろいろ小技を使っています。
ニヤニヤ笑いが目に浮かぶ。
美声に加えて芸達者とは。さすが、ボリス・クリストフの師匠だっただけのことはある。
2012-06-17 02:19
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コメント(5)
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ある夜のこと
>妙なハイテンションで聴いてしまう
しまさんもですか。・・・私もです笑
オテロの反応が穿ってると、それだけで(イアーゴの表現が少々不足気味でも)息をつめて見入り・聴き入ってしまう場面ですよね。イアーゴのオテロへの嫉妬を妄想したりして(デズデモーナに横恋慕してるような・・・)、二重にも三重にも楽しんでます。←変態かいっ
エウジェニオ・ジラルドーニ、色気の匂い立ってくるような歌唱を繰り広げていますね・・・!!苦み走った声!!好きになりました。
でもルッフォさんはやはり別格ですね。
by ふう (2012-06-18 19:44)
■ふうさん
オテロの「名場面」として、このシーンの録音が思いのほかたくさんあることに感激しています。やはりどの時代のバリトン・フェチもこのシーンが好きなんですね♪
ジラルドーニ、いいですよね。
この声ならさぞ素敵なスカルピアでしたでしょう。録音してないんでしょうかねぇ。
名古屋のおやじさんならご存知かな?
>ルッフォさんはやはり別格
ハハハ…ファンなので、あからさまにえこひいきしてますよー。
by しま (2012-06-19 02:35)
ご指名がありましたので。ジラルディーニのスカルピアの録音については残念ながら知りません。手元に確実にあるのは(昨年の転居以来、どうもさまざまなものの管理が悪くて、CDについても同様)、このヤーゴの録音は(以前コメントした仏EMI「比類なきヴェルディ歌唱」に収録)とSYMP●SIUMというレーベルから出ていたThe Harold Wayne CollectionVolⅢに収録されていている1902年録音の6曲です(ワーグナーの夕星の歌のイタリア語歌唱や、「ドン・カルロ」のロドリーゴの死など)。ちなみに彼の録音は希少とのことです。ところで、永井荷風の「あめりか物語」や彼の日記をお読みになったことがありますか?オペラがらみで楽しめると思いますよ。
by 名古屋のおやじ (2012-06-19 21:00)
すみません。いくつかタイプミスをしました。ジラルドーニにするべきところなど・・・なお「比類なきヴェルディ歌唱」には、ザネッリの第三幕の"Dio! Mi potevi scagliar"も入っております。その前には、メルヒオールが同じ歌をドイツ語で歌ったもの、その前にはゼナッテロとアマートの第二幕の二重唱が収録。
by 名古屋のおやじ (2012-06-19 21:19)
■名古屋のおやじさん
ありがとうございますm(_ _)m
ジラルドーニの録音は希少なんですね。どうりで、YTにもほとんどなくて。
(ものすごくマニアックなものを手に入れてしまったみたいで嬉しい)
夕星の歌のイタリア語歌唱にも興味津々です。フランス語歌唱はブランで体験済なので(笑)
>永井荷風
なんと・・学生時代以来です!! 図書館に行ってみます♪
>ザネッリの第三幕の"Dio! Mi potevi scagliar"
この聴き比べCDのオテロ編にも収録されていまして、実はこれでザネッリがめちゃくちゃ好きになってしまったんです(笑)
そこから派生して、カルロ・モレッリも好きに・・;;;
なんかもー止まらないって感じなんです。助けて・・(泣笑)
by しま (2012-06-20 21:07)