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夢とロマンの「主よ!あなたは私の頭上に」/19人のオテロ [オペラ録音・映像鑑賞記]

zanelli.jpg19世紀生まれのアンティーク歌手たちによる《オテロ》、名場面集

 かなりご無沙汰してしまいました。9月にまだ1回も更新していない事実に気づき、急きょ(笑)

 「主よ! あなたは私の頭上に」は、《オテロ》3幕前半のモノローグ。私が最も好きな部分です。

 自分がかつて贈ったハンカチを「カッシオが持っていた」とイァーゴが言い、実際デズデーモナはハンカチを失くしてしまっていた。まだ不義は確定的ではないのですが、オテロは百パーセント信じたも同然。ついに愛する妻デズデーモナを「娼婦め!」と罵倒して追い払い、ひとり取り残された広間で絶望的な心情を切々と神に訴える。

 「オテロ、アホだなぁ~」と言うのはたやすいことですが、このモノローグは私にとってとても身につまされる部分です。私は女性ですが、デズデーモナよりもオテロの心情に共感してしまいます。

 人生において“最も恐れている事態”が本当に起こってしまったら……。それに脅えるあまり、自ら妄想の中で悲劇を起こして、やがて現実に成就させてしまう。

 人間にとって「真実」とは客観的な事象ではなく、「心の中で起こっていること」。実際の世界と齟齬が無いように見えるのなら、それは心の中と現実世界とのギャップを自分自身の行動によって埋めた結果なのだと思うのです。

 どんな人にも、そうやって自ら悲劇を生み出してしまった、その激しい痛みと後悔の経験はあるのではないでしょうか。少なくとも私にはあるし、その苦い思い出がオテロの悲痛なモノローグによって断片的に蘇ってきます。
 素晴らしいオテロ歌い達も、おそらくそういう経験を元に、このモノローグに思いを込めているのだと思います。

 今回は愛しのタマちゃん(フランチェスコ・タマーニョ)の録音は無いのですが、代わりにレナート・ザネッリ(画像右上)による迫心の朗唱があります。

 前の「清らかな…」での豊かな感情表現を聴いたときから「お? お?」と、磁石に吸い寄せられるかのように興味が向いていたのですが、この回から「もしかして、凄い人なのかも……」と正座をして聴くようになったのです。

 そのうちザネッリについても経歴等をまとめようと思いますが、まずは彼の素敵なオテロを聴きましょうね。

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とても美しい音楽なのに、この部分の収録は3人のみ。その中にザネッリが入っていて本当によかった。
こちらでまとめてお聴きいただけます。⇒YouTube




leonescalaisport.JPG【主よ!あなたは私の頭上に】 レオン・エスカレ(Leon Escalais)フランス/1859-1941
1905年の録音/ピアノ伴奏/仏語歌唱
テンポよくシャキシャキ歌っている。ちょっと軽くて表面的。
ここは作品中で最も宗教的美しさのあふれる音楽で、怒ってばかりのオテロが純粋な悲しみを表現する部分だから、私的には旋律を大切に歌ってもらいたいのだけど。
エスカレも情感込めてはいるけど、オテロの恐怖はこんなもんじゃない筈なんだ。こんなもんじゃないんだよなぁ……。



renatozanelliport.jpg【主よ!あなたは私の頭上に】 レナート・ザネッリ(Renato Zanelli)チリ/1892-1935
1928年の録音/オーケストラ伴奏(イァーゴ付き)/⇒YouTube
冒頭を「歌う」のではなく、演劇のように台詞を「朗唱」している。劇的な効果はあるし、実際ここは「モノローグ」なので、そうやってもいいんだとは思う。デル=モナコなんかもやっていますが、この方法は美しい旋律を潰してしまうので私の好みではないのです。
が、ザネッリの場合、中盤の悲哀に満ちたソットヴォーチェから次第に常軌を逸する様が圧倒的に真に迫り、たいへん胸をかき乱される。ただのグズりではなく、ぼやきでもなく、自暴自棄名暴れん坊でもなく。ザネッリのオテロは確かに神を仰いでいる。最後の一筋の希望を請う祈りと、逃れようのない恐れの感情が、抑制のきいた美声の内でしのぎあっているのが伝わってくる。



AurelianoPertile.jpg【主よ!あなたは私の頭上に】 アウレリアーノ・ペルティレ(Aureliano Pertile)イタリア/1885-1952
1942年の録音/オーケストラ伴奏/
ボロ泣きしすぎで笑える!それじゃカニオだってwww ラストは地面にひっくりかえって大暴れ。「買って〜!買ってくんなきゃヤダ〜!」
そういやイァーゴとの二重唱でもスゴかった覚えが・・・(⇒こちら
でも繰り返し聴いてると、なんだか可哀相に思えてきちゃう。そんなところがこの人の武器かも。
亡くなる10年前の録音のようだが、声はとても力強く、美声だ。理想的なイタリアン・テノールだと思う。




 次回はいよいよ「オテロの死」。ヒストリカル聴き比べもいよいよ大詰めを迎えます。

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