ニーベルングの指輪〈序夜〉《ラインの黄金》@METライブビューイング 2012/08/15 [オペラ録音・映像鑑賞記]
METライブビューイング、ニーベルングの指輪〈序夜〉《ラインの黄金》アンコール上映を観てきました。
アンチ・ワーグナーではありますが、以前に《ジークフリート》と《神々~》を新国で観て、わりと素直に楽しめたので、“リング”には好感を持っております。順番を間違って観ているので、当時はストーリーにイマイチついていけなかった部分も、今回第一作目の《ラインの黄金》を見て「なるほど」と納得することができました。
本当なら一気に《ワルキューレ》まで観ておきたかったのですが、スケジュールが合わずに断念。
暑い中、無理してでも観にいってよかったなぁと思うのは、ロベール・ルパージュによるスペクタクルな演出を大画面で堪能できたことです。
ラインの乙女たちの泡を映す水面(画像↑)も、ローゲとヴォータンが歩を進める神秘的な地下の階段(画像↓)も、舞台に据え付けられた巨大な短冊状パネルを組み合わせて操作し、そこに映像や光を当てることで表現しているのです。宙吊りにされた歌手達はちょっと大変そうですが……壮大な音楽によく合っているし、視覚的にも大いに楽しめました。
オペラにここまでの“ケレン”が必要なのかと考える方もいるかもしれませんが、バロック時代のオペラの演出など、当時の最先端の技術を駆使し、とんでもなくド派手な仕掛けで観客を喜ばせていたといいますから、オペラの娯楽としての方向性はこれで正統なんじゃないかと思います。
フル・オーケストラで大仰な音楽を奏で、大柄な歌手たちが大声で歌いまくる舞台芸術なんですから、見た目もカッコつけずに派手にやるがよろし。今年3月の新国《さまよえるオランダ人》でデッカい船の舳先が登場した時なんかも、そう思いましたものね。
アンチ・ワーグナーではありますが、以前に《ジークフリート》と《神々~》を新国で観て、わりと素直に楽しめたので、“リング”には好感を持っております。順番を間違って観ているので、当時はストーリーにイマイチついていけなかった部分も、今回第一作目の《ラインの黄金》を見て「なるほど」と納得することができました。
本当なら一気に《ワルキューレ》まで観ておきたかったのですが、スケジュールが合わずに断念。
暑い中、無理してでも観にいってよかったなぁと思うのは、ロベール・ルパージュによるスペクタクルな演出を大画面で堪能できたことです。
ラインの乙女たちの泡を映す水面(画像↑)も、ローゲとヴォータンが歩を進める神秘的な地下の階段(画像↓)も、舞台に据え付けられた巨大な短冊状パネルを組み合わせて操作し、そこに映像や光を当てることで表現しているのです。宙吊りにされた歌手達はちょっと大変そうですが……壮大な音楽によく合っているし、視覚的にも大いに楽しめました。
オペラにここまでの“ケレン”が必要なのかと考える方もいるかもしれませんが、バロック時代のオペラの演出など、当時の最先端の技術を駆使し、とんでもなくド派手な仕掛けで観客を喜ばせていたといいますから、オペラの娯楽としての方向性はこれで正統なんじゃないかと思います。
フル・オーケストラで大仰な音楽を奏で、大柄な歌手たちが大声で歌いまくる舞台芸術なんですから、見た目もカッコつけずに派手にやるがよろし。今年3月の新国《さまよえるオランダ人》でデッカい船の舳先が登場した時なんかも、そう思いましたものね。
真夏の夜のオペラ ガラコンサート8/8 @アミューたちかわ [コンサート/リサイタル]
行ってきましたので、備忘録。
目当ては、おなじみのテノールの望月哲也さんと、メゾ・ソプラノの清水華澄さん。お二人はもとより、他の出演者の方々もみなさんとても良かったのですが、今回特に心に残っているのは、ピアノの河原忠之さんです。
ピアノ一本でオペラのオケ伴の醍醐味を再現してしまわれる河原さん。(これ、ホントに難しいんですよ!)以前にも望月氏のリサイタルでも体験していて(他にもあったのかもしれませんが)、その時も「上手だなぁ」「素晴らしいなぁ」と思ったものですが、今回は特にそれを意識させられました。
最も心に残っているのは、《ドン・カルロ》の“友情の二重唱” の伴奏。中盤、ドン・カルロが教会にやって来た父王とエリザベッタを見て身を震わせるところ。
このシーンはもう何度も、何種類もの録音や映像で聴き慣れていて、まぁ特に注目(耳)したこともないんですが、今日の河原さんの伴奏を聴いていて、「あっ」と思った。
たった今、カルロとロドリーゴの目の前を、フィリッポ2世とその妃が通り過ぎて行ったんだ……!
はっきりとその光景が“見えた” んですね。
正直、今まで聴いたオーケストラ伴奏で、そこまでの臨場感を味わったことはありません。
たぶん「録音だから」というのもあるでしょう。どんな名演でも「録音」では音楽の立体感は多少損なわれると思いますし。
また、映像鑑賞の場合は、視覚に頼るところも大きいですから、純粋に演奏のみからその情景を汲み取ろうなんて、あまりしていないと思いますし。
何の飾りもないシンプルなステージにグランドピアノが1台きり。歌う望月氏も、バリトンの森口賢二氏も(お二人とも演技達者でいらっしゃいますが)、普通のタキシード姿です。
視覚的にも音楽的にもとてもシンプルなパフォーマンス。しかし、オーケストラ伴奏付きの本格的なオペラ上演に匹敵する――むしろ、それを凌ぐほどの――説得力を感じられたのは、名人河原さんの力だと思いました。
もちろん、歌もよかったですよ。
個人的には、中井亮一さんの《セビリアの理髪師》の大アリアが聴けたのがよかったし、《イル・トロヴァトーレ》の三重唱、“静かな夜だ!” は興奮しました。
私のお気に入りの望月哲也さんの、ドン・カルロもよかったです。やはりこの方は、姿といい歌唱といい、存在感がありますね。そしてヴェルディもちゃんとハマるんだ!ということがわかって満足です。
清水華澄さんの声もあいかわらず素晴らしい。日中共同制作、コンサート形式の新国《アイーダ》ではアムネリスでしたね。ぜひ聴きに行きたかったのですが仕事で都合がつかず、本当に残念でした。
その他、《カルメン》を除けばすべてイタリアオペラからの選曲…というのが、そもそも私好みで満足しました。
--------------------------------
第一部
《椿姫》より“乾杯の歌” -- 全員
《オテロ》より“イヤーゴの信条” -- 森口賢二
《セビリアの理髪師》より
“本当に私なの?” -- 高橋薫子/牧野正人
“今の歌声は” -- 高橋薫子
“ああなんたる衝撃~静かに静かに” -- 高橋薫子/中井亮一/牧野正人
“もう逆らうのはやめよ” -- 中井亮一
《カルメン》より“あんたね? 俺だ!” -- 清水華澄/村上敏明
第ニ部
《ドン・カルロ》より“二人の胸に友情を” -- 望月哲也/森口賢二
《ボエーム》より“冷たい手” -- 村上敏明
《アドリアーナ・ルクヴルール》より
“私は芸術の僕” -- 砂川涼子
“優しい母の面影を” -- 望月哲也
“モノローグが始まる” -- 牧野正人
“苦い喜び、甘い苦しみ” -- 清水華澄
《トロヴァトーレ》より“静かな夜だ” -- 砂川涼子/村上敏明/森口賢二
アンコール:“オー・ソレ・ミオ”
ピアノ伴奏:河原忠之
目当ては、おなじみのテノールの望月哲也さんと、メゾ・ソプラノの清水華澄さん。お二人はもとより、他の出演者の方々もみなさんとても良かったのですが、今回特に心に残っているのは、ピアノの河原忠之さんです。
ピアノ一本でオペラのオケ伴の醍醐味を再現してしまわれる河原さん。(これ、ホントに難しいんですよ!)以前にも望月氏のリサイタルでも体験していて(他にもあったのかもしれませんが)、その時も「上手だなぁ」「素晴らしいなぁ」と思ったものですが、今回は特にそれを意識させられました。
最も心に残っているのは、《ドン・カルロ》の“友情の二重唱” の伴奏。中盤、ドン・カルロが教会にやって来た父王とエリザベッタを見て身を震わせるところ。
このシーンはもう何度も、何種類もの録音や映像で聴き慣れていて、まぁ特に注目(耳)したこともないんですが、今日の河原さんの伴奏を聴いていて、「あっ」と思った。
たった今、カルロとロドリーゴの目の前を、フィリッポ2世とその妃が通り過ぎて行ったんだ……!
はっきりとその光景が“見えた” んですね。
正直、今まで聴いたオーケストラ伴奏で、そこまでの臨場感を味わったことはありません。
たぶん「録音だから」というのもあるでしょう。どんな名演でも「録音」では音楽の立体感は多少損なわれると思いますし。
また、映像鑑賞の場合は、視覚に頼るところも大きいですから、純粋に演奏のみからその情景を汲み取ろうなんて、あまりしていないと思いますし。
何の飾りもないシンプルなステージにグランドピアノが1台きり。歌う望月氏も、バリトンの森口賢二氏も(お二人とも演技達者でいらっしゃいますが)、普通のタキシード姿です。
視覚的にも音楽的にもとてもシンプルなパフォーマンス。しかし、オーケストラ伴奏付きの本格的なオペラ上演に匹敵する――むしろ、それを凌ぐほどの――説得力を感じられたのは、名人河原さんの力だと思いました。
もちろん、歌もよかったですよ。
個人的には、中井亮一さんの《セビリアの理髪師》の大アリアが聴けたのがよかったし、《イル・トロヴァトーレ》の三重唱、“静かな夜だ!” は興奮しました。
私のお気に入りの望月哲也さんの、ドン・カルロもよかったです。やはりこの方は、姿といい歌唱といい、存在感がありますね。そしてヴェルディもちゃんとハマるんだ!ということがわかって満足です。
清水華澄さんの声もあいかわらず素晴らしい。日中共同制作、コンサート形式の新国《アイーダ》ではアムネリスでしたね。ぜひ聴きに行きたかったのですが仕事で都合がつかず、本当に残念でした。
その他、《カルメン》を除けばすべてイタリアオペラからの選曲…というのが、そもそも私好みで満足しました。
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第一部
《椿姫》より“乾杯の歌” -- 全員
《オテロ》より“イヤーゴの信条” -- 森口賢二
《セビリアの理髪師》より
“本当に私なの?” -- 高橋薫子/牧野正人
“今の歌声は” -- 高橋薫子
“ああなんたる衝撃~静かに静かに” -- 高橋薫子/中井亮一/牧野正人
“もう逆らうのはやめよ” -- 中井亮一
《カルメン》より“あんたね? 俺だ!” -- 清水華澄/村上敏明
第ニ部
《ドン・カルロ》より“二人の胸に友情を” -- 望月哲也/森口賢二
《ボエーム》より“冷たい手” -- 村上敏明
《アドリアーナ・ルクヴルール》より
“私は芸術の僕” -- 砂川涼子
“優しい母の面影を” -- 望月哲也
“モノローグが始まる” -- 牧野正人
“苦い喜び、甘い苦しみ” -- 清水華澄
《トロヴァトーレ》より“静かな夜だ” -- 砂川涼子/村上敏明/森口賢二
アンコール:“オー・ソレ・ミオ”
ピアノ伴奏:河原忠之
夢とロマンの「清らかな思い出は遠い彼方に」/19人のオテロ [オペラ録音・映像鑑賞記]
19世紀生まれのアンティーク歌手たちによる《オテロ》、名場面集。
初代オテロのタマちゃんことフランチェスコ・タマーニョは老力士ながらけっこう頑張っているのでして、このCDでは登場の第一声「喜べ!」と、この「清らかな思い出は…」、そして「オテロの死」、それぞれの取組に参戦しているのです。
惜しむらくは2幕の二重唱、「大理石のような大空にかけて誓う」の録音が無いこと……と思っていたら、ありました! 1903年のもので、なんと2007年にリリースされるまで存在を知られていなかったのだそうです。
104年後に日の目を見た録音。《オテロ》初演から数えると120年になりますね。これを「夢とロマン」と呼ばずして何と呼ぼう?
イァーゴを歌うのは、兄弟のジョヴァンニ・タマーニョではないかと言われています。あんまり上手くないけどね…。
右上の、オテロに扮したタマちゃんの画像をクリックすると、YouTubeの該当音源に飛びますので、ぜひぜひ聴いてみてください。
後悔唖然としますぜ(笑)
で、かなり話が逸れましたが、今回取り上げるのは、2幕中盤のオテロの独白、「清らかな思い出は遠い彼方に」。イァーゴの毒が効きはじめ、デズデーモナに対する疑惑がじわじわと膨らんでくるシーンです。デズデーモナを信じたいが、既に疑念のほうが圧倒的な真実としてオテロの心に侵食してくる。
勇壮な行進曲風の伴奏が付きますが、オテロ歌いの皆さんには大声だけではなく、内面の苦しみもうまく表現してほしいものです。
そして私イチオシのレナート・ザネッリがぐっとアピールしてきたのもまさにここから。YouTubeにも上がっていますので、ぜひぜひ聴いてみてください。(こちらは普通に良い!です)
初代オテロのタマちゃんことフランチェスコ・タマーニョは老力士ながらけっこう頑張っているのでして、このCDでは登場の第一声「喜べ!」と、この「清らかな思い出は…」、そして「オテロの死」、それぞれの取組に参戦しているのです。
惜しむらくは2幕の二重唱、「大理石のような大空にかけて誓う」の録音が無いこと……と思っていたら、ありました! 1903年のもので、なんと2007年にリリースされるまで存在を知られていなかったのだそうです。
104年後に日の目を見た録音。《オテロ》初演から数えると120年になりますね。これを「夢とロマン」と呼ばずして何と呼ぼう?
イァーゴを歌うのは、兄弟のジョヴァンニ・タマーニョではないかと言われています。あんまり上手くないけどね…。
右上の、オテロに扮したタマちゃんの画像をクリックすると、YouTubeの該当音源に飛びますので、ぜひぜひ聴いてみてください。
で、かなり話が逸れましたが、今回取り上げるのは、2幕中盤のオテロの独白、「清らかな思い出は遠い彼方に」。イァーゴの毒が効きはじめ、デズデーモナに対する疑惑がじわじわと膨らんでくるシーンです。デズデーモナを信じたいが、既に疑念のほうが圧倒的な真実としてオテロの心に侵食してくる。
勇壮な行進曲風の伴奏が付きますが、オテロ歌いの皆さんには大声だけではなく、内面の苦しみもうまく表現してほしいものです。
そして私イチオシのレナート・ザネッリがぐっとアピールしてきたのもまさにここから。YouTubeにも上がっていますので、ぜひぜひ聴いてみてください。(こちらは普通に良い!です)