新国立劇場《ドン・カルロ》 -- 2006年の新演出 [オペラ録音・映像鑑賞記]
なぜ今頃?とお思いになる方もいらっしゃるかもしれませんが、新国立劇場にて、06年の新演出の《ドン・カルロ》を観てきました。
会場は、5階にある情報センター。こちらの閲覧室奥にビデオシアターなるお部屋がありまして、新国の記録映像をグループで視聴できるのです(今回、初めて知りました)。
本日、それを利用した小規模な鑑賞会がありまして、mixiでそれを知ったワタクシ、いそいそと参加させていただいたのです。
初対面の方ばかりでしたが(1名は、偶然にもマイミクさんでした)、趣味を同じくする者どうし。また、「単に観るだけ」という肩の張らない集まりということで、たまに私語を交えながら楽しく鑑賞させていただきました。
さて、新国の《ドン・カルロ》ですが、4幕・イタリア語バージョンでした。
演出と美術はマルコ・アルトゥーロ・マレッリによるやや抽象的なもので、ビスコンティの絢爛豪華なトラディショナル系に比べると、ぱっと見はちょっと寂しい。
けれども、このシンプルな舞台美術のお陰で、音楽と歌唱にぐぐっとのめり込むことができるのかもしれません。
逆に言えば、これで歌がショボかったら金返せモンなわけですが、《ドン・カルロ》にはさほど思い入れの無い私ですので、じゅうぶん満足できたと思っています。
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カルロ役のミロスラフ・ドヴォルスキー(写真左)はなかなか力強い歌唱でした。
2幕1場、ロドリーゴとエボリとの激しい三重唱では、高音が失速して消えた瞬間があったように思いますが、他が威勢がよかったのであまり気になりませんでした。
何よりも、カルロだからといって、ナヨナヨ、クヨクヨと(歌唱で)悩みすぎないところがいいですね。
もちろんヴェルディ・テノールのシゴトであるぐずりは盛大で、合格です。
外見も逞しいですので、ウジウジした弱虫クンのカルロ王子には雰囲気は合っていませんが、「ヒゲ面でガタイもいいくせに、このへナチョコ~!?」ってなギャップが生まれ、この演目のオモシロさが底上げされます。
そして、バリトン好きとしては気になるポーザ侯ロドリーゴ、マルティン・ガントナー(写真右)も合格です!!
特に上手ってわけでもないのですけど、気合いの入り方ではトップです。
この気合いの入り方、似たような人を見たことがあるな~と感じていたのですが、思い出しました。藤原歌劇団の須藤慎吾さんを彷彿とさせます。
声も明るくて、この手のタイプの歌手ではけっこう私好みなんです。
たまにドヴォルスキーの盛大なぐずりに声がかき消されちゃいましたし、彼もまた高音は何度か失速していましたけど、ヴェルディ歌唱はテクニックより気合が命ですからね(←え、そうなの?)。大して気になりませんでした。
死の場面でも、クサい芝居(喘ぎながらよろめいて、カルロの足元に美少年倒れ)をまじえつつ、私を笑わせてくれましたし。
なんと、代役だったんですね。
05年の《マイスタージンガー》で、ベックメッサー歌ったんですって。へぇぇ…♪ また来日してくれないかしら。
フィリッポ2世のヴィタリ・コワリョフはちょっと迫力不足な気もしましたが、特に難はなし。
妻屋 秀和@宗教裁判長との問答シーンも平均点以上で良かったです。
そして、いつも後に追いやられてしまう女性陣ですが、エリザベッタ、輝きのある良い声だと思っていたら、大村 博美だったんですね。
エリザベッタという役がそうなのかもしれませんが、透明感がありすぎて、私の好みを言わせていただくのならもう少し癖があってもいいかなとも思いますけれども。歌の出来は主要キャストのトップでしょう。
エボリはマルゴルツァータ・ヴァレヴスカ。
この人は高音があまりきれいではなくて(いつもそうなのかはわかりませんが)、ヴェールの歌はちょっと冴えない感じでした。まずくはないのですけれども。
しかし、3幕の「二度と王妃様にお会いすることもないでしょう」は、一変してすごかったです。
《ドン・カルロ》で歌われるアリアのうち、私が最も好きなのはコレなのですが、
O mia regina, io t'mmolai
と歌う、まるで賛美歌のような旋律の部分で、ヴァレヴスカの歌唱に胸をえぐられたような気がしたのです。
ここで感動させてもらえたのなら、ヴェールの歌のことなんて、もう何も言うものですか。
あっちのアリアは有名ですし、華やかで人目(耳)を惹きますけれども、作品に重みを与えるのは後半のアリアのほう。
ご他聞に漏れず、《ドン・カルロ》の筋立ても荒唐無稽でバカバカしさ満点ですが、それでもこの作品を「真剣に観よう」と思わせる力を持っているのは、私にとってはこのアリアがあるからなので。
冗長だし鬱陶しいしで、ヴェルディ作品の中では私はあまり頻繁には聴かないのですけど(アレンがポーザ歌ってる録音でも出りゃ別ですが)、こうやって全曲通して観てみると、ちゃんと感動するものだなぁと思いました。
…いや…、フランドルの民が窮状を訴えに来たあたりで、自主的に煙草休憩をとったんでしたっけ…。
4幕版なのに、集中力が続かない私。やっぱり《ドン・カルロ》はちょっと苦手か…(笑)
こちら(⇒)は、自主休憩中に撮影した、情報センター脇の「屋上庭園」。
都会のど真ん中のちょっとしたオアシス。
今の季節、鑑賞の合間にベンチに座って、好きな歌手や演目についてゆっくり語り合うのも素敵ですね。
(真夏や真冬はキツイと思いますが)
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【指揮】ミゲル・ゴメス=マルティネス
【演出・美術】 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
【フィリッポ二世】ヴィタリ・コワリョフ
【ドン・カルロ】ミロスラフ・ドヴォルスキー
【ロドリーゴ】マーティン・ガントナー*
【エリザベッタ】大村 博美
【エボリ公女】マルゴルツァータ・ヴァレヴスカ
【宗教裁判長】妻屋 秀和
【修道士】長谷川 顯
【テバルド】背戸 裕子
【レルマ伯爵/王室の布告者】樋口 達哉
【天よりの声】幸田 浩子
会場は、5階にある情報センター。こちらの閲覧室奥にビデオシアターなるお部屋がありまして、新国の記録映像をグループで視聴できるのです(今回、初めて知りました)。
本日、それを利用した小規模な鑑賞会がありまして、mixiでそれを知ったワタクシ、いそいそと参加させていただいたのです。
初対面の方ばかりでしたが(1名は、偶然にもマイミクさんでした)、趣味を同じくする者どうし。また、「単に観るだけ」という肩の張らない集まりということで、たまに私語を交えながら楽しく鑑賞させていただきました。
さて、新国の《ドン・カルロ》ですが、4幕・イタリア語バージョンでした。
演出と美術はマルコ・アルトゥーロ・マレッリによるやや抽象的なもので、ビスコンティの絢爛豪華なトラディショナル系に比べると、ぱっと見はちょっと寂しい。
けれども、このシンプルな舞台美術のお陰で、音楽と歌唱にぐぐっとのめり込むことができるのかもしれません。
逆に言えば、これで歌がショボかったら金返せモンなわけですが、《ドン・カルロ》にはさほど思い入れの無い私ですので、じゅうぶん満足できたと思っています。
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カルロ役のミロスラフ・ドヴォルスキー(写真左)はなかなか力強い歌唱でした。
2幕1場、ロドリーゴとエボリとの激しい三重唱では、高音が失速して消えた瞬間があったように思いますが、他が威勢がよかったのであまり気になりませんでした。
何よりも、カルロだからといって、ナヨナヨ、クヨクヨと(歌唱で)悩みすぎないところがいいですね。
もちろんヴェルディ・テノールのシゴトであるぐずりは盛大で、合格です。
外見も逞しいですので、ウジウジした弱虫クンのカルロ王子には雰囲気は合っていませんが、「ヒゲ面でガタイもいいくせに、このへナチョコ~!?」ってなギャップが生まれ、この演目のオモシロさが底上げされます。
そして、バリトン好きとしては気になるポーザ侯ロドリーゴ、マルティン・ガントナー(写真右)も合格です!!
特に上手ってわけでもないのですけど、気合いの入り方ではトップです。
この気合いの入り方、似たような人を見たことがあるな~と感じていたのですが、思い出しました。藤原歌劇団の須藤慎吾さんを彷彿とさせます。
声も明るくて、この手のタイプの歌手ではけっこう私好みなんです。
たまにドヴォルスキーの盛大なぐずりに声がかき消されちゃいましたし、彼もまた高音は何度か失速していましたけど、ヴェルディ歌唱はテクニックより気合が命ですからね(←え、そうなの?)。大して気になりませんでした。
死の場面でも、クサい芝居(喘ぎながらよろめいて、カルロの足元に美少年倒れ)をまじえつつ、私を笑わせてくれましたし。
なんと、代役だったんですね。
05年の《マイスタージンガー》で、ベックメッサー歌ったんですって。へぇぇ…♪ また来日してくれないかしら。
フィリッポ2世のヴィタリ・コワリョフはちょっと迫力不足な気もしましたが、特に難はなし。
妻屋 秀和@宗教裁判長との問答シーンも平均点以上で良かったです。
そして、いつも後に追いやられてしまう女性陣ですが、エリザベッタ、輝きのある良い声だと思っていたら、大村 博美だったんですね。
エリザベッタという役がそうなのかもしれませんが、透明感がありすぎて、私の好みを言わせていただくのならもう少し癖があってもいいかなとも思いますけれども。歌の出来は主要キャストのトップでしょう。
エボリはマルゴルツァータ・ヴァレヴスカ。
この人は高音があまりきれいではなくて(いつもそうなのかはわかりませんが)、ヴェールの歌はちょっと冴えない感じでした。まずくはないのですけれども。
しかし、3幕の「二度と王妃様にお会いすることもないでしょう」は、一変してすごかったです。
《ドン・カルロ》で歌われるアリアのうち、私が最も好きなのはコレなのですが、
O mia regina, io t'mmolai
と歌う、まるで賛美歌のような旋律の部分で、ヴァレヴスカの歌唱に胸をえぐられたような気がしたのです。
ここで感動させてもらえたのなら、ヴェールの歌のことなんて、もう何も言うものですか。
あっちのアリアは有名ですし、華やかで人目(耳)を惹きますけれども、作品に重みを与えるのは後半のアリアのほう。
ご他聞に漏れず、《ドン・カルロ》の筋立ても荒唐無稽でバカバカしさ満点ですが、それでもこの作品を「真剣に観よう」と思わせる力を持っているのは、私にとってはこのアリアがあるからなので。
冗長だし鬱陶しいしで、ヴェルディ作品の中では私はあまり頻繁には聴かないのですけど(アレンがポーザ歌ってる録音でも出りゃ別ですが)、こうやって全曲通して観てみると、ちゃんと感動するものだなぁと思いました。
…いや…、フランドルの民が窮状を訴えに来たあたりで、自主的に煙草休憩をとったんでしたっけ…。
4幕版なのに、集中力が続かない私。やっぱり《ドン・カルロ》はちょっと苦手か…(笑)
こちら(⇒)は、自主休憩中に撮影した、情報センター脇の「屋上庭園」。
都会のど真ん中のちょっとしたオアシス。
今の季節、鑑賞の合間にベンチに座って、好きな歌手や演目についてゆっくり語り合うのも素敵ですね。
(真夏や真冬はキツイと思いますが)
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【指揮】ミゲル・ゴメス=マルティネス
【演出・美術】 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
【フィリッポ二世】ヴィタリ・コワリョフ
【ドン・カルロ】ミロスラフ・ドヴォルスキー
【ロドリーゴ】マーティン・ガントナー*
【エリザベッタ】大村 博美
【エボリ公女】マルゴルツァータ・ヴァレヴスカ
【宗教裁判長】妻屋 秀和
【修道士】長谷川 顯
【テバルド】背戸 裕子
【レルマ伯爵/王室の布告者】樋口 達哉
【天よりの声】幸田 浩子
2009-11-15 22:57
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こんにちは。
懐かしいです・・このドン・カルロ
劇場で2回とTV放送を見ました。
劇場でおもしろくても、
TVでは、どうもねぇ・・
というのも少なくありませんが
これはどちらもよかったです。
私の好みにぴったりはまったようで
今のところ、このドン・カルロが私の一番です。
資料室での共同映像視聴、一度体験しました。
ずうっと初期のR.ライモンディの「ドン・キショット」です。
これも、劇場でも見たものですが、
席のせいもあって、大画面の映像は一段と素敵でした。
TV放送してもらいたいものです。
by euridice (2009-11-17 07:23)
eurideceさん>
こんばんは。
>私の好みにぴったりはまったようで
そうだったんですか。私も好感持ちました。
シンプルな演出も、音楽のジャマをせずによかったと思います。
>大画面の映像
やはりこれがミソですね。音もいいし。
あの部屋を確保するのはなかなか大変だそうですが、機会があったらまた行ってみたいものです。
by しま (2009-11-17 23:00)
私も数年前に、有志の方が企画して下さったビデオシアター鑑賞会に2〜3回参加させていただいたことがあります。
>あの部屋を確保するのはなかなか大変だそうです
そうなんですか...昔より流行っているのかもしれませんね。劇場も客の入りがよくなってますから。
ビデオブースも利用したことがありますが、これは、いろいろちょこちょこ勝手に見られるのがいいですね。
私も鑑賞レポートをTBしましたのでよろしくお願いします。
by keyaki (2009-11-18 02:37)
keyakiさん>
>有志の方が企画して下さったビデオシアター鑑賞会
もしかして、私が参加したのと同じ方の会かもしれないですね♪
次回はワーグナーだそうですよ。
私はパスするか、良い機会にワーグナーに挑戦するか、ちょっと考え中です。
TB承認させていただきました。
生でご覧になったなんて羨ましいです。
by しま (2009-11-22 23:39)