トーマス・アレンのドン・ジョヴァンニ -- '88 ロイヤル・オペラ [アレンのドン・ジョヴァンニ]
声よし、歌よし、姿よし。
世に数多く出回っているトーマス・アレンのドン・ジョヴァンニ。映像モノで今のところ私が最も気に入っているのは、'88年ロイヤル・オペラ・ハウスのものです。
ヒゲ面で歌唱も荒々しく、二枚目というのとは違いますが、健康的な色気を放つ生き生きとしたジョヴァンニです。
何かのインタビューで「300回以上演った」とか何とか仰っているのを目にしたことがあります。さぞかしいろんな演出でいろんなタイプのドンを歌ったんでしょうけれども、残された映像では声も最盛期を過ぎていますし、容色も衰えて吸血鬼みたいになっちゃったり・・。
おまけにアレンのドンの解釈も、思い入れが強すぎるのか、他の役に比べるとぎこちないというか破綻しているというか、後年はあまり役作りに成功しているとは思えない。
なので、生身の人間アレンが滲み出ている'88年ROHのドン映像は、普通に「ステキ~(*´Д`)!!」とのめり込めます。
人間らしい味のある、“普通の”悪人ドン・ジョヴァンニ。例えばアーヴィン・シュロットとか昨今の二枚目セクシーとはほど遠いけど、オッサンらしいアクの強さとカッコ良さにあふれた、これぞ最盛期のアレンのドンです。
相手役(?)のドンナ・エルヴィーラがキリ・テ・カナワであるのも嬉しい。
テ・カナワの繊細かつ金属的な声の響きが役柄にぴったりですし、なにしろこの方もアレンに負けず劣らずのsinging actress!!
おかげで、動きの少ない他の歌手にまじって、妙に浮きがちなアレンのオーバーアクションが、この舞台ではほどよく中和されています。
上の画像をクリックすると、YouTubeに飛びます。ドンのエルヴィーラとの絡み、Ah, fuggi il traditor! から Non ti fidar, o misera にかけてのシーンですが、アレンとテ・カナワのまるで夫婦喧嘩をしているような息の合った演技が見もの。
ってゆーか、ドン様、エルヴィーラが現れたとたんに「ぐぁ~ッ!!」って。そこまで嫌がらなくてもいいのにね(笑)
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ドンをバス歌手に歌わせることも多いけど、私は断然バリトン派です。(チェーザレ・シエピ様は別として)
アレンはハイ・バリトンなので、それこそバスと比べると弱々しくて迫力に劣るのですが、だからこそラストの“地獄落ち”シーンで騎士長の雷のような歌唱を前に、断末魔の男の苦悶が際立ってよいのです。
とはいえアレンの声は、バリトンのドンとしても本当にか弱いのでしてね。美声ですけど、ハイテンションでドンを歌うのは負担だったんじゃないかと思うこともあります。ROHの'92年のドンでは既に声の輝きはないです。
評判だったわりには、絶好調なアレンのドンはなかなか聴けないんですね。
録音もけっこうあって、どれもそれなりに素敵だけど、なぜかちょっと物足りない。愛聴盤のネヴィル・マリナー指揮のCDが最も好きな録音ですが、スタジオ録りのせいかノーブルな歌唱が妙に気取って聴こえます。
結局、「ドンはバリトン!」と言いながらも、最低限な「強さ」は欲しいんですよね。貴族とはいえナヨナヨしたキャラクターではないんだし。悪人であると同時に主役ですので、それなりの存在感は求められます。
オペラで「存在感」といえば、そりゃ「声量」とか「重量感」でしょ。(←ヴェルディ・バリトン愛好家としての偏った見解) 要するに気合いです、気合い。
この'88年のドンは、他の録音や映像に比べて「気合い」で勝っているようです。だからこそ歌唱に男性的な強さがある。そういう意味でも貴重なお宝です。
← こちらは、おそらくこの時のドン・ジョヴァンニについて語っていると思われる、キリ・テ・カナワとアレンのインタビューです。TV放送の合間に流されたものだそうです。
(画像をクリックするとYouTubeの該当ページに飛びます)
'87年となっているのがちと気になりますが、ROHのデータベースによると'87にドン・ジョヴァンニの公演はなし。'86年はガラ・コンサートでLà ci darem la manoが歌われただけ(ちなみにアレンとルチア・ポップ)のようなので、'88年が正しいのではないかと思われます。
キリ・テ・カナワ曰く、「アレンのドンって荒々しくて男らしくてステキ。女性だったら飛びかかりたくなっちゃうでしょうね。私も彼ってすごくセクシーだと思うわ。もちろん芝居の中で、だけど!」。
テ・カナワの言うことにいちいち反応するトムの顔が面白いです。
ドンとエルヴィーラの息の合った演技については、アレンが「実はお互いの演技について入念に話し合ったんだ。だからジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアみたいにやってるよ」と、どや顔で言っています。
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↓配役は以下の通り↓ (ソースはこちら)
Conductor: Colin Davis
Leporello: Stafford Dean
Donna Anna: Makvala Kasrashvili
Don Giovanni: Thomas Allen
Il commendatore: Gwynne Howell
Don Ottavio: Stuart Burrows
Donna Elvira: Kiri Te Kanawa
Zerlina: Joan Rodgers
Masetto: Gordon Sandison
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関連記事リンク
アレンの“ドン” -- イントロダクション
アレンの“愛弟子”!? -- 勇者マルトマンのインタビュー
世に数多く出回っているトーマス・アレンのドン・ジョヴァンニ。映像モノで今のところ私が最も気に入っているのは、'88年ロイヤル・オペラ・ハウスのものです。
ヒゲ面で歌唱も荒々しく、二枚目というのとは違いますが、健康的な色気を放つ生き生きとしたジョヴァンニです。
何かのインタビューで「300回以上演った」とか何とか仰っているのを目にしたことがあります。さぞかしいろんな演出でいろんなタイプのドンを歌ったんでしょうけれども、残された映像では声も最盛期を過ぎていますし、容色も衰えて吸血鬼みたいになっちゃったり・・。
おまけにアレンのドンの解釈も、思い入れが強すぎるのか、他の役に比べるとぎこちないというか破綻しているというか、後年はあまり役作りに成功しているとは思えない。
なので、生身の人間アレンが滲み出ている'88年ROHのドン映像は、普通に「ステキ~(*´Д`)!!」とのめり込めます。
人間らしい味のある、“普通の”悪人ドン・ジョヴァンニ。例えばアーヴィン・シュロットとか昨今の二枚目セクシーとはほど遠いけど、オッサンらしいアクの強さとカッコ良さにあふれた、これぞ最盛期のアレンのドンです。
相手役(?)のドンナ・エルヴィーラがキリ・テ・カナワであるのも嬉しい。
テ・カナワの繊細かつ金属的な声の響きが役柄にぴったりですし、なにしろこの方もアレンに負けず劣らずのsinging actress!!
おかげで、動きの少ない他の歌手にまじって、妙に浮きがちなアレンのオーバーアクションが、この舞台ではほどよく中和されています。
上の画像をクリックすると、YouTubeに飛びます。ドンのエルヴィーラとの絡み、Ah, fuggi il traditor! から Non ti fidar, o misera にかけてのシーンですが、アレンとテ・カナワのまるで夫婦喧嘩をしているような息の合った演技が見もの。
ってゆーか、ドン様、エルヴィーラが現れたとたんに「ぐぁ~ッ!!」って。そこまで嫌がらなくてもいいのにね(笑)
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ドンをバス歌手に歌わせることも多いけど、私は断然バリトン派です。(チェーザレ・シエピ様は別として)
アレンはハイ・バリトンなので、それこそバスと比べると弱々しくて迫力に劣るのですが、だからこそラストの“地獄落ち”シーンで騎士長の雷のような歌唱を前に、断末魔の男の苦悶が際立ってよいのです。
とはいえアレンの声は、バリトンのドンとしても本当にか弱いのでしてね。美声ですけど、ハイテンションでドンを歌うのは負担だったんじゃないかと思うこともあります。ROHの'92年のドンでは既に声の輝きはないです。
評判だったわりには、絶好調なアレンのドンはなかなか聴けないんですね。
録音もけっこうあって、どれもそれなりに素敵だけど、なぜかちょっと物足りない。愛聴盤のネヴィル・マリナー指揮のCDが最も好きな録音ですが、スタジオ録りのせいかノーブルな歌唱が妙に気取って聴こえます。
結局、「ドンはバリトン!」と言いながらも、最低限な「強さ」は欲しいんですよね。貴族とはいえナヨナヨしたキャラクターではないんだし。悪人であると同時に主役ですので、それなりの存在感は求められます。
オペラで「存在感」といえば、そりゃ「声量」とか「重量感」でしょ。(←ヴェルディ・バリトン愛好家としての偏った見解) 要するに気合いです、気合い。
この'88年のドンは、他の録音や映像に比べて「気合い」で勝っているようです。だからこそ歌唱に男性的な強さがある。そういう意味でも貴重なお宝です。
← こちらは、おそらくこの時のドン・ジョヴァンニについて語っていると思われる、キリ・テ・カナワとアレンのインタビューです。TV放送の合間に流されたものだそうです。
(画像をクリックするとYouTubeの該当ページに飛びます)
'87年となっているのがちと気になりますが、ROHのデータベースによると'87にドン・ジョヴァンニの公演はなし。'86年はガラ・コンサートでLà ci darem la manoが歌われただけ(ちなみにアレンとルチア・ポップ)のようなので、'88年が正しいのではないかと思われます。
キリ・テ・カナワ曰く、「アレンのドンって荒々しくて男らしくてステキ。女性だったら飛びかかりたくなっちゃうでしょうね。私も彼ってすごくセクシーだと思うわ。もちろん芝居の中で、だけど!」。
テ・カナワの言うことにいちいち反応するトムの顔が面白いです。
ドンとエルヴィーラの息の合った演技については、アレンが「実はお互いの演技について入念に話し合ったんだ。だからジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアみたいにやってるよ」と、どや顔で言っています。
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↓配役は以下の通り↓ (ソースはこちら)
Conductor: Colin Davis
Leporello: Stafford Dean
Donna Anna: Makvala Kasrashvili
Don Giovanni: Thomas Allen
Il commendatore: Gwynne Howell
Don Ottavio: Stuart Burrows
Donna Elvira: Kiri Te Kanawa
Zerlina: Joan Rodgers
Masetto: Gordon Sandison
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アレンの“ドン” -- イントロダクション
アレンの“愛弟子”!? -- 勇者マルトマンのインタビュー
2012-02-22 01:49
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コメント(2)
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普通に魅力的なジョヴァンニを演じているアレンが見られて嬉しいです♪私もジョヴァンニはバリトン派なので、もっと全盛期のアレンのジョヴァンニの映像が見たいなぁと常々思っていました。
>ジンジャー・ロジャースとフレッド・アステアみたいにやってるよ」と、どや顔
直後のインタビュアーの冷めた目線につい笑ってしまいました。
ところでアレンは今年ROHデビュー40周年ということで、「コジ」の舞台上に花が降ったりケーキが出てきたりしたようですね。もうご存じとは思いますが、FlickrにあるROHのアレン40周年記念アルバムをご紹介しておきます。美味しい写真満載ですね(^^)
http://www.flickr.com/photos/royaloperahouse/sets/72157629055848809/
個人的には、素敵な驚き顔を見せてくれているこの↓写真が好きです(^^)
http://www.flickr.com/photos/royaloperahouse/6775062481/
by Sardanapalus (2012-02-22 20:42)
■サルダナさん
お久しぶりです。いつまで続くか自信がないのでひっそりと更新していました。
こうしてコメントくださって嬉しいです。
>ROHのアレン40周年記念アルバム
ありがとうございます。普通に気付いていませんでした(笑)
私のファン道は皆様の生温かい励ましと通報、施しによって成り立っております。
じーちゃんのビックリ顔、かわいいですね~♪
ホント、ファンとしても感無量です!
by しま (2012-02-23 23:56)