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The Magic Flute - Impempe Yomlingo (ソウル・オペラ「魔笛」)@東京国際フォーラムC [オペラ実演レポ]

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 アフリカは人類発祥の地と言われています。
 そのせいかどうかわかりませんが、アフリカや中東の女性が発する独特の奇声を聞くと、荒々しい狂騒に飲まれつつも懐かしさに涙したくなるような奇妙な感情に襲われる私です。

 整然としたクラシック音楽を聴いている時の精神状態とはまったく違う。まぁ、ヴェルディ中期の作品の最高潮にハイテンションな部分を聴く時の興奮とは若干似通っているかもしれません。が、血沸き肉踊るヴェルディの楽曲であっても、あのアフリカンな奇声のように、誕生前の記憶を揺さぶれるかのような生命力はさすがに感じることはないのです。

 いわんや、モーツァルトをや。

 というわけで、アフリカン・ミュージックにアレンジされた《魔笛》がこんなに魅力的に生まれ変わるとは、なんたる驚き。実際に鑑賞する前もアイデアは面白いと思っていましたし、それなりに楽しめるだろうと期待をしていましたが、期待を超えた体験ができて大いに満足した公演でした。

 実演レポに映像や音声は付けない主義ですが、言葉で説明してもなかなか伝わらないと思いますので、YouTubeの予告動画をご紹介しておきます。



 この画期的な舞台は南アフリカのISANGO/PORTOBELLOというカンパニーによるもの。2008年2月~のロンドン公演も大盛況で、同年のローレンス・オリヴィエ賞を受賞したそうです。

 このロンドン公演の際、アレンの追っかけで私もかの地におりまして、観光の折にこの演目がかかっている劇場の前を何度か通り過ぎたものです。
 私の渡英のお目当ても同じく《魔笛》@ROHだったこともあり、こちらのアフリカン《魔笛》のほうにもけっこう興味がそそられていました。

 結局日程の都合でアフリカン《魔笛》は観ないままに私は帰国。同行していたサルダナさんが後の日に鑑賞、詳しいレポを書いてくださっています。こちら⇒ミュージカル「魔笛(The Magic Flute)」
 コメント欄に、観なかった私の悔しさいっぱいのコメントも残っていて笑えます。

 ROHの《魔笛》は(あまり好きじゃないくせに)3回も観て、(弁者のシーン以外は)けっこう飽き飽きしていたことを思い出すにつけ、アフリカンなほうも行っておくべきだったなぁと未練タラタラだったのですが、1年も経たぬうちに東京公演が実現して本当にラッキー。


 私が観たのは12/23(火)、最終日の昼公演でした。


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映画《ハンニバル》の劇中オペラ -- " Vide cor Meum " [オペラの話題]

hannibal.jpg 映画の中でオペラが効果的に使われることがあります。

 登場人物が実際にオペラを観劇するシーンだったり、BGMとして流れたり、特定のオペラを連想させる演出であったり、使われ方はさまざま。効果的に使われれば映画のテーマも強烈に浮き彫りにされますし、そのオペラの新たな一面を発見することができたりします。

 映画に出てきたオペラのシーンが印象的で、そこからオペラに興味をもって聴くようになったという方々もけっこういらっしゃるようです。最近ではオペラの演出でも映画を意識したものが多いようですし、どちらも「総合芸術」ということで、血縁関係のような相性の良さがあるのかもしれません。

 先日、久々に《ハンニバル》を鑑賞しました。

 言わずと知れた、アンソニー・ホプキンスの怪演が凄い「ハンニバル・レクター」シリーズの二作目(2001年)で、日本ではR-15指定で公開された猟奇モノ。作品の出来じたいは一作目の《羊たちの沈黙》を凌ぐほどではありませんが、ダークなロマンスと映像美という点において、シリーズの中では群を抜いていると思っています。

 この映画のゴシックロマン的な雰囲気をより印象付けているのが、中盤のフィレンツェでの野外オペラのシーン。
(※猟奇シーンでは全くありません。美しい映像ですので、グロ系や血が苦手な方も安心してご覧ください)。



 レクター博士に見つけられて思わず目をそらすのは、フィレンツェ警察の捜査官パッツィ。彼は報奨金欲しさにレクター博士を売ろうとしており、この後で博士に惨殺されるのですが、その壮絶なシーンとは対照的な、清らかな祈りのような音楽、神秘的な舞台の様子がため息が出るほど美しい。客席に沿って並べられたキャンドルの炎も、我々を中世の時代へ誘っているかのようです。


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TV放送されました -- 《ヘンゼルとグレーテル》@ROH [アレンのニュース]

BBC H&G.jpg

 英国ロイヤル・オペラの《ヘンゼルとグレーテル》が、12/25の15:00からBBC2で放送されました。

 むさくるしい父ちゃん役のトーマス・アレンもモチロン出演しております。

 BBCではiPlayerというオンデマンド配信サービスを行っていて、放送終了後しばらくの間、無料で番組を視聴したりダウンロードしたりできるのできるのですが、なにしろイギリス国内限定なので、日本在住の私はその恩恵にあずかることができません。有志の方から番組のファイルを頂きましたが、日本国内では開くことができないんですよね。残念です。
(12/28訂正: なんと別形式のファイルに編集してくださいまして、無事鑑賞することができました!!ヽ(´ー`)ノ 感激の感想は後ほどアップします。本当にありがとうございます!! 感謝です!!)

 TV放送の証拠(笑)としてBBCiPlayerのサイトのキャプチャ画像のみアップしておきます。画像をクリックすると該当のページに飛びますので、英国にいらっしゃる方でこの番組をまだ観ていらっしゃらなかったら、この機会に是非どうぞ。(1/1 4:59pmまで視聴可能です)

 放送されたということは、何らかの形で私にも観るチャンスが訪れることと思います。それこそDVD化されるかもしれないし、YouTubeにアップされるかもしれないしね♪


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《ドン・ジョヴァンニ》@新国立劇場 12/7 [オペラ実演レポ]

dg_sinkoku1.jpg 新国立劇場の《ドン・ジョヴァンニ》を鑑賞。

 私、コレ、ほんっと~うに期待していなかったんですが、期待していなかったのが功を奏したのか、それなりに楽しむことができたのが収穫でした。

 何を期待していなかったって、ルチオ・ガッロです。実際はけっこう気に入ったのでよかったのですが、当日までは「ガッロ? 知らん!!」ってな状態でして(爆)

 ヴァランシエンヌさんに、「ほら、クーラとグレギーナの《マノン・レスコー》でレスコー兄だった人ですよ」と教えていただき、私、そのレスコー兄もあまり良い印象を持っていなかったもので、ますます「どーでもいいや」モードに入ってしまって(爆)

 実際、幕が上がってからも「シラ~…;;;」としたままで、いまいち乗りきれなかったのです。歌もまずくはないし、ごく普通にドンジョを歌っているのねという感じなのですが、とりわけ光るものや目新しい部分は見当たらない。ワクワク感に欠けるな~と思っていたのですが、ツェルリーナを口説くあたりから次第に「これでいいのかな」と考え直しました。

 実際、ガッロの歌唱も後半に行きしに精彩を放つようになってきたようです。2幕が始まったあたりからは、ついうっかり(?)笑い声を上げたりして、舞台上の出来事に集中できるようになっていました。


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[ヴァン=アラン追悼・再掲] トーマス・アレンの《ビリー・バッド》/マンガ編 [アレンの録音・映像鑑賞記]

rva.jpg※12/4、英国人のバス・バリトンリチャード・ヴァン=アランが亡くなりました。73歳でした。(⇒訃報記事はこちら

 トーマス・アレンニコライ・ゲッダのコレクションで手に入れた音源や映像にもちょくちょく登場するベテラン歌手で、親しみを感じていた人だけに、とても残念なニュースです。

 追悼の意を込めて、旧ブログでのネタ記事をこちらへ移行。メンテおよび試聴ファイルも追加の上、再掲載といたします。

 '88年の《ビリー・バッド》@イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)。
 ヴァン=アランは敵役、ジョン・クラッガートを演じました。

 善なるものを憎みつつも求めずにはいられない、原罪を背負った人間の煩悶がリアルに伝わる歌唱です。ヴァン=アランのクラッガートがあったからこそ、アレンの演じるビリー・バッドも説得力を持ち得たのだと思います。




↓コレです。
DVDbb.jpg
 わざわざ海外から取り寄せたというのに、ネタ的にはかなり期待ハズレです。

 声もよく出ています。

 日頃の「ファンにあるまじき鬼畜ネタ」のバチが当たったのかもしれません(つД`)

 おまけに、タイトル・ロールのアレンよりも、ヴィア役のフィリップ・ラングリッジの写真の方が大きいです。

 兄さんも二枚目歌唱&大マジ演技しちゃってますし、イジリようがありません。これじゃただのカッコいいおじさんじゃないですか(←カッコよくちゃ悪いのか?)

 まぁウチのblogは、オペラ関係以外の知り合いもひっそりとROMしてくれていますので、そんな方々にも楽しんでいただけるよう、今回は普通に《ビリー・バッド》のストーリーを紹介してみようと思います。


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初日でした -- 《ヘンゼルとグレーテル》@ROH 12/9 [アレンのニュース]

roh-hansel1.jpg 早いもので、こちらで告知していた英国ロイヤル・オペラ(ROH)の《ヘンゼルとグレーテル》がもう初日を迎えました。

 父ちゃん(ペーター)役のトーマス・アレンも、ちゃんと出演してくれましたともヽ(´ー`)ノ

 もしかしたら主役の二人と一緒にアレンの箒職人姿、ちらっとでも写ってくれるかも…?なんて、儚い期待を抱いていたんですが、それは叶わず。

 でも初日をご覧になったロンドンの椿姫さんが、ありがたいことに、カーテンコールの写真をいっぱいブログにアップしてくださいました。
(⇒こちら暫定アップだそうですので、本格的な感想記事が出ましたらリンク貼り直しさせていただきますネ)。 12/28 リンク貼り直しました。

roh-hansel3.jpg ←こちらの舞台写真から想像するに、明るいブルーの服を着た女性が魔女役のアニア・シリアでしょう。それをふまえて椿姫さんのお写真を眺めてみるに、シリアの向かって左側に立っている貧乏ったらしい衣装のオヤジが我らがじーちゃん…なんでしょう。なんだ、意外にフツーやんw

 顎ヒゲ生やしているよーに見えます。これは地毛か? じーちゃんが兄さんだった頃には、顎ヒゲは全然似合わなかったんですけど、今なら結構イケるかもしれまへんねぇ…(*´艸`*)

 画像を拝借しているMusicalCriticism.comには寸評も。
 "Thomas Allen and Elizabeth Connell were excellent as the parents" だそうで。
 これだけじゃ何もわかんないんですけど、まぁ脇役なんだから贅沢言わない。ちゃんと“お父さん”の演技をしてたってコトかな。褒めてくださってありがとー。

roh-hansel2.jpg 《ヘンゼルとグレーテル》がROHで上演されたのは、1937年以来なんだそうで、えーと…な、71年ぶりってことですか!!(*゚Д゚) 

 それは注目されるはずです。

 前の記事でもちらっと話題にしましたけれども、このROHの新プロダクション、12/16の公演がヨーロッパの映画館に生中継されるのですよね。

 Moshe Leiser Patrice Caurierによるこの演出、写真を眺めるだけでもため息がでるほど美しい。舞台全体を覆いつくすかのような、この森の展望。子どもたちが歩くのに合わせてスクロールするんですって。確かに、それなら映画のスクリーンにも映えるでしょう。

 これ、元旦までやってるし。やっぱり観に行きたいなぁ~…( ´Д`)=3



トビー・スペンスの《キャンディード》@ENO [オペラ録音・映像鑑賞記]

tobyspence1.jpg 演出についての自主勉強も終わったことだし、いよいよENO《キャンディード》の感想に移ります。

 まずは、主役のキャンディードを歌った英国人の若手テノール、トビー・スペンスをご紹介。
 苦手な徹夜までしてこの放送を録音したのは、ひとえに彼の声とパフォーマンスを聴きたいがためだったのです。

 生年月日は非公開。音楽一家に生まれ育ったサラブレッドで、オックスフォードのニューカレッジで合唱を、更に名門ギルドホール音楽演劇学校で声楽を学んだ秀才君。在学中にWelsh National Operaの《イドメネオ》に出演し、プロ歌手としてのキャリアをスタートさせたとウィキペディアには載っております。

 レパートリーは主にモーツァルトやヘンデル、ロッシーニ。
 これまでのキャンディードシリーズで取り上げたテノール君たちのレパートリーも、モーツァルトやバロックものが多いので、キャンディード役に要求される“声”の傾向もだんだん理解できてきました。

 嬉しいことに、ブリテンのオペラ2作もレパートリーに入っています。《ビリー・バッド》の新兵というのは、まぁ若いからということもあるでしょうけど、もう一つは《カーリュー・リヴァー》の狂女!!
 これを知った瞬間、私のマニア心に一気に火が点いてしまいました!!
 すンごいんですのよ~、この役は!!
 能の《隅田川》を題材にした教会寓話三部作の一つで、上演される機会は少ないのですが、これは是非トビー君で体験したいと思います。もち、生で。

 その他、トビー君の代表作として是非心に留めていただきたいのは《テンペスト》。ベンジャミン・ブリテンの再来と言われている作曲家トーマス・アデスによる新作オペラで、初演は2004年2月。トビー君の役はナポリの王子フェルディナンドだそうです。

 おっと、《キャンディード》の感想を書いていたんでした。

 キャンディード(カンディード)という名前の意味は、ズバリ「天真爛漫」ということで、この役を担当するテノールも、明るい声で屈託の無い、嫌味のない純粋な歌唱を売りにしている人でなければ全然サマになりません。

 少しでも悲壮感が漂う声だと、第一声からブチ怖し。かといってパヴァ神みたいなのじゃ、純真無垢を通り越して頭悪すぎになっちゃいます。

 キャンディードは一途すぎるところもありますけれども、決しておバカさんなキャラではありませんから、その辺りの微妙な匙加減が大変重要。与えられた歌もワンパターン気味なので、観客を惹きつける魅力も兼ね備えている必要がありますしね。

 その点、童顔で笑顔のさわやかなトビー君なら、見た目も合格100点満点。
 肝心の歌唱においても、まったくもって理想的なキャンディードでありました。NYのポール・グローブズもロイヤル・フェスティバル・ホールでのマイケル・スラッテリーも、理想的なキャンディードには違いありませんが、トビー君はちょっと別格。ファンの贔屓耳でしょうけれども、“輝き”と“華”で勝っていました。


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カーセン版《キャンディード》@ENO -- 演出についての覚書き [オペラの話題]

carsen.jpg 11月23日にデンマークのDR P2で放送された、イングリッシュ・ナショナル・オペラ(ENO)の《キャンディード》を聴きました。

 演奏会形式ではなく、芝居の入った本格的な上演。連休を利用して徹夜でネットラジオと格闘しましたが、その甲斐は十分にありました。演奏のレベルも満足のいくものでしたし、音だけの鑑賞でもステージの活気が伝わってきて、時にプッと吹いたりしながら、楽しく聴きとおすことができました。

 今回のお目当ては、ナレーターでもパングロスでもなく、ちゃんと主役のキャンディード。最近お気に入りの英国人テノールの声を聴きたいがためだったのですが、そちらの感想は後で語ることにして。

 その前に。
 このプロダクションの一風変わった演出、ロバート・カーセン(写真)のシゴトについて、覚え書き程度にまとめておくことにいたします。

 音だけの鑑賞で、実際に舞台を観たわけでもないですし、放送を聴くまでは興味なんて全く持っていなかったんですが。冒頭からセリフがかなりアレンジされていて、気になっていたところ、インターミッションでカーセンのインタビューが流れまして「ナルホド」と思ったコトがあったのです。

6005_3.jpg ブレアさんやブッシュさんが国旗の柄の海パン姿で登場するシーンが物議をかもして、スカラ座でカットされたとかされないとか、そんな噂はネット上でちらほら聞いてはいたんですが、《キャンディード》という作品を知らなかった当時は何が何やら「???」でした。

 またもや現代読替大好きな演出家が暴走したのかー程度に思っていたわけなんですけれども、カーセンの言い分を聞いてみると、けっこう筋が通っているというか、やりたいことは理解できるというか。
 最終的な結論を下すのは、映像なり実演なりを自分の目で観てからなんでしょうけど。調べれば調べるほどに面白くてハマってしまいました。

 このカーセン版《キャンディード》。パリ・シャトレ座とスカラ座、ENOによる共同制作なんだそうで、プレミエはシャトレ座で06年12月。その後、07年6月にスカラ座で上演され、ロンドンにやってきたのは08年6月でしょうか。

 6/23の初日の模様は、実際にご覧になったロンドンの椿姫さんがレポして下さっていますので、そちらをぜひお読みください。

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